黄金の肌に赤いサリーをまとい、虎に跨り、十本の腕にそれぞれ武器を持つ——ドゥルガー(Durga)は、悪を滅ぼし、正義を守る戦いの女神として、インド全土で熱烈に崇拝されています。
ドゥルガーに捧げられる花は、赤。真紅のハイビスカス、赤いバラ、赤いマリーゴールド、そしてあらゆる赤い花々。情熱、勇気、勝利を象徴する赤い花が、この女神を飾ります。
なぜ戦いの女神には赤い花が捧げられるのでしょうか。その背景には、血を流してでも守るべきもののための戦い、悪に立ち向かう勇気、そして必ず訪れる勝利の確信があります。
ドゥルガーとは:悪を滅ぼす母なる女神
プロフィール
サンスクリット名: दुर्गा (Durgā)
別名:
- マヒシャースラ・マルディニー(水牛の悪魔を倒す者)
- シャクティ(力、エネルギー)
- デーヴィー(女神)
- アンビカー(母)
- バヴァーニー(宇宙の創造者)
本質: シヴァ神の妃パールヴァティーの戦士としての姿
乗り物: 虎またはライオン
司るもの: 正義、保護、悪の破壊、母性的な守護
ドゥルガーの容姿
- 肌の色:黄金色、または輝く赤みを帯びた色
- 衣装:赤いサリー、金の刺繍
- 顔:美しくも厳しい表情、三つの眼
- 十本(または八本)の腕:それぞれに神々から授かった武器
- トリシューラ(シヴァの三叉の槍)
- チャクラ(ヴィシュヌの円盤)
- 剣
- 弓矢
- 槍
- 杵
- 蛇の縄
- 法螺貝
- 盾
- 蓮の花(慈悲の象徴)
- 乗り物:虎またはライオン——力と勇気の象徴
ドゥルガーの二つの側面
恐ろしい戦士: 悪魔と戦う時、ドゥルガーは容赦ない戦士となります。激しい怒りで敵を滅ぼし、正義を貫きます。
慈悲深い母: しかし信者たちには、優しく慈悲深い母として接します。守り、導き、祝福を与える女神です。
この二面性は、母親が子供を守るために戦う姿と重なります。普段は優しいが、子供を脅かすものには容赦しない——それがドゥルガーの本質です。
マヒシャースラとの戦い:女神誕生の神話
無敵の水牛悪魔
昔、マヒシャースラ(水牛の姿をした悪魔)という強大な悪魔がいました。彼は厳しい苦行によってブラフマー神から祝福を得ました——「男によって殺されることはない」という不死の力を。
この力を得たマヒシャースラは傲慢になり、天界を攻め、神々を追い出し、宇宙を支配しました。神々は彼を倒そうとしましたが、「男に殺されない」という祝福のため、誰も勝てませんでした。
神々の怒りから生まれた女神
絶望した神々は集まり、激しい怒りを発しました。その怒りのエネルギーが一つに融合し、眩いばかりの光となって、一人の女神が現れました——それがドゥルガーです。
各神々は自分の武器を彼女に授けました。
- シヴァは三叉の槍
- ヴィシュヌは円盤(チャクラ)
- インドラは雷の槍(ヴァジュラ)
- アグニは槍
- ヴァーユは弓矢
- ヒマラヤ山は虎を乗り物として
こうして完全武装したドゥルガーは、マヒシャースラとの戦いに向かいました。
九日間の戦い
戦いは九日間続きました。マヒシャースラは水牛の姿から、ライオン、象、そして戦士の姿へと次々に変身しましたが、ドゥルガーはその全てを打ち破りました。
最終日、ドゥルガーは三叉の槍でマヒシャースラを貫き、遂に悪魔を倒しました。その瞬間、天界も地上も歓喜の声に包まれました。
この戦いを記念する祭りが、ナヴァラートリ(九夜祭)とダシャラー(十日目、勝利の日)です。
赤い花:戦いと勝利の色
なぜ赤なのか
血の色: 赤は血の色であり、戦いの色です。ドゥルガーは血を流してでも正義を守る覚悟を持つ女神です。
情熱と力: 赤は最も強いエネルギーを持つ色です。戦うための情熱、勝利への意志、そして守るための力を象徴しています。
生命力: 赤は生命そのものの色でもあります。ドゥルガーは破壊するだけでなく、新しい生命を守り、育む母でもあります。
勇気: 赤は恐れを知らない勇気の色です。困難に立ち向かう強さ、正義のために戦う決意を表しています。
第一チャクラ: ヨーガの伝統では、赤は根のチャクラ(ムーラーダーラ)の色です。これは生存本能、安全、そして大地に根ざした力を表します。
赤いハイビスカス:ドゥルガーの最愛の花

植物学的情報
学名: Hibiscus rosa-sinensis
科名: アオイ科
原産地: 東アジア(中国南部からインド)
インドでの呼び名: ジャバー・クスム(जवा कुसुम / Japa Kusum)、グダハル
開花時期: ほぼ一年中(特に夏季)
赤いハイビスカスの特徴
花
- 鮮やかな深紅色
- 直径10〜15センチメートルの大輪
- 五枚の花びらが大きく開く
- 中心から長く突き出た雄しべの柱(これが「舌」に見立てられる)
- 一日花(朝開いて夕方にはしぼむ)
葉
- 濃い緑色
- 光沢がある
- 鋸歯状の縁
樹形
- 常緑低木
- 高さ2〜5メートル
- 熱帯・亜熱帯地域で育つ

なぜ赤いハイビスカスがドゥルガーに捧げられるのか
血の色: 真紅のハイビスカスは、戦場で流された血、そして生命のエネルギーを象徴しています。
舌の形: 中心から突き出た雄しべは、カーリー女神(ドゥルガーのもう一つの姿)の舌を思わせます。カーリーは戦いの後、興奮して舌を出している姿で描かれます。
一日で散る潔さ: 一日で咲き散るハイビスカスは、戦士の潔さ、一瞬一瞬を全力で生きる姿勢を表しています。
熱帯の花: 暑さに強く、強烈な太陽の下で咲くハイビスカスは、困難な状況でも力強く生きる女神の性質と重なります。
大きく開いた花: 大胆に開いたハイビスカスの姿は、恐れを知らない勇気、堂々とした強さを象徴しています。
ハイビスカスの実用的価値
食用
- 花は食用可能(サラダ、天ぷら)
- ハイビスカスティー(ローゼル種)——美容と健康に良い
- ビタミンCが豊富
薬用
- 血圧降下作用
- 利尿作用
- 消化促進
- 髪の健康(ヘアオイルに使用)
染料: 赤い花から赤紫色の染料が取れます。
観賞用: 世界中で庭園花として人気があります。
赤いバラ:西洋から来た戦士の花
バラとドゥルガー
もともとインド原産ではありませんが、現代では赤いバラもドゥルガーに捧げられます。
赤いバラの象徴
- 情熱
- 勇気
- 美しさ
- 力強さ
棘の意味: バラの棘は、美しさの中にも防御の力があることを示しています。ドゥルガーも美しい女神ですが、同時に強力な戦士です。
バラの品種と色
深紅のバラ: 最も力強く、情熱的。ドゥルガーに最適です。
赤いミニバラ: 小さくても鮮やかな赤。数を多く捧げることができます。
赤いつるバラ: 花輪を作るのに適しています。
赤いマリーゴールド:勝利の花輪
マリーゴールドの赤い品種
マリーゴールドというと黄色やオレンジ色が一般的ですが、赤みの強い品種もあります。
赤褐色のマリーゴールド
- 深い赤茶色
- オレンジと赤の中間
- ビロードのような質感
赤いマリーゴールドの使用: ドゥルガーの花輪(マーラー)を作る際、赤みの強いマリーゴールドが好まれます。
マリーゴールドの花輪
ドゥルガー・プージャ(ドゥルガーの礼拝)では、大量のマリーゴールドで花輪を作り、女神像に捧げます。
作り方
- 新鮮なマリーゴールドを数十〜数百輪用意
- 太い針と綿糸を使用
- 花の中心を通して糸に通す
- 密集させながら長い輪を作る
- 女神像の首にかける
赤と黄色のマリーゴールドを組み合わせることもあります。
ネリウム(キョウチクトウ):インドの赤い花

植物学的情報
学名: Nerium oleander
科名: キョウチクトウ科
インドでの呼び名: カナエール(Kaner)
開花時期: 夏から秋
ネリウムの特徴
花
- 赤、ピンク、白、黄色(ドゥルガーには赤)
- 五枚の花びら
- 筒状の基部
- 甘い香り
- 房状に咲く
葉
- 細長い
- 濃い緑色
- 革質
樹形
- 常緑低木
- 高さ2〜6メートル
- 乾燥に強い
注意: ネリウムは全草に毒性があります(ダトゥーラと同様、観賞・供養用のみ)。
なぜネリウムがドゥルガーに捧げられるのか
強靭さ: ネリウムは乾燥、暑さ、痩せた土地でも育つ非常に強い植物です。この強さはドゥルガーの不屈の精神と重なります。
美しさと毒: 美しい花でありながら毒を持つ——これはドゥルガーの二面性(美しい女神でありながら恐ろしい戦士)を表しています。
赤い色: 鮮やかな赤は、情熱と勝利を象徴します。
ナヴァラートリとダシャラー:赤い花に埋もれる九夜
ナヴァラートリ(九夜祭)
時期: 9月〜10月(ヒンドゥー暦アーシュヴィナ月)
ドゥルガーがマヒシャースラと戦った九日間を記念する、インド最大の祭りの一つです。
九日間の意味: 最初の三日間はドゥルガー、次の三日間はラクシュミー、最後の三日間はサラスワティーを礼拝します。しかし全体としてドゥルガーの祭りとされています。
祭りの様子
- 巨大なドゥルガー像が作られる(特に西ベンガル州)
- 像は赤い花で飾られる
- 夜通しの音楽と踊り
- 赤い衣装を着る人々
- 街中が赤い花で埋め尽くされる
ダシャラー(十日目、勝利の日)
十日目はヴィジャヤ・ダシャミー(勝利の十日目)と呼ばれ、ドゥルガーがマヒシャースラを倒した日を祝います。
儀式
- ドゥルガー像を川や海に沈める(ヴィサルジャン)
- 最後の祈りと共に、大量の赤い花を捧げる
- 新しい始まり、悪の終わりを祝う
象徴: 像を水に沈めることは、女神が自然(水)に還ることを意味します。そして来年また、新しい姿で戻ってくると信じられています。
ドゥルガーとカーリー:同じ女神の異なる姿
カーリーの誕生
ドゥルガーとカーリー(Kali)は、実は同じ女神の異なる側面です。
神話: ドゥルガーがラクタビージャ(血の種)という悪魔と戦った時、この悪魔は特殊な力を持っていました——彼の血の一滴が地面に落ちるたびに、新しい悪魔が生まれるのです。
ドゥルガーが彼を切りつけるたびに、血から無数の悪魔が生まれ、戦いは終わりませんでした。
激怒したドゥルガーの額から、真っ黒な女神が現れました——それがカーリーです。カーリーは血が地面に落ちる前にすべて飲み干し、ついに悪魔を倒しました。
カーリーと赤いハイビスカス
カーリーにも赤いハイビスカスが捧げられます。特に108本の赤いハイビスカスの花輪が好まれます。
カーリーは舌を出した姿で描かれるため、ハイビスカスの雄しべが「舌」を思わせることから、この花が選ばれます。
日本での赤い花の観賞と入手
赤いハイビスカス
沖縄: 沖縄ではハイビスカスが県花として親しまれています。赤いハイビスカスも多く見られます。
温室・植物園: 本州でも、温室や植物園で一年中観賞できます。
園芸店: 鉢植えのハイビスカスは園芸店で購入可能です。室内で育てることができます。
赤いバラ
バラ園: 全国各地にバラ園があります。5月と10月が見頃です。
生花店: 赤いバラは通年入手可能です。
赤いキョウチクトウ
公園や街路樹: 日本でもキョウチクトウは街路樹や公園に植えられています。夏に赤い花を咲かせます。
注意: キョウチクトウは毒性があるため、触る際は注意が必要です。
日本でドゥルガーに捧げる花
赤いハイビスカス: 鉢植えを購入するか、生花店で注文。
赤いバラ: 最も入手しやすい赤い花です。
赤い椿: 冬から春に咲く日本の花。ドゥルガーに捧げることができます。
赤いダリア: 夏から秋に咲く大輪の花。
赤いカーネーション: 通年入手可能。
まとめ:赤い花が語る、母なる戦士の物語

ドゥルガーと赤い花——真紅のハイビスカス、情熱のバラ、勝利のマリーゴールド——その関係は、守るために戦う母の姿を映し出しています。
赤いハイビスカスは、一日という短い命を、全力で咲き切る。その潔さは、一瞬一瞬を戦う戦士の姿そのものです。
赤いバラは、美しい花びらの下に鋭い棘を隠し持つ。優しさと強さ、美しさとカーリー—ドゥルガーの二つの顔を表しています。
赤いマリーゴールドは、無数の花びらが集まって一つの花を作る。一人ひとりは小さくても、集まれば大きな力となる——それは人々が団結して悪に立ち向かう姿でもあります。
赤という色は、血の色であり、生命の色であり、情熱の色です。戦場で流される血も、母親の胎内で育まれる生命も、同じ赤い色をしています。
ドゥルガーは破壊する女神ではなく、守るために戦う母です。子供を脅かすものには容赦なく、しかし子供には限りない愛を注ぐ——その母性の両面が、赤い花に込められています。
ナヴァラートリの夜、赤い花で飾られたドゥルガー像を見るとき——そこには、正義のために戦う勇気、愛するものを守る決意、そして必ず訪れる勝利への確信が宿っています。
赤い花を見るとき、その鮮やかな色彩の中に、生命の力強さ、情熱の炎、そして恐れを知らない勇気を感じることができるでしょう。
虎に乗り、十の腕に武器を持つ女神は、今も私たちに語りかけています——「正義のために立ち上がれ、愛するものを守れ、そして決して恐れるな」と。
ジャイ・マー・ドゥルガー!
(ドゥルガー母神に勝利あれ!)
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