夜明け前の東の空、あるいは日没後の西の空に、ひときわ明るく輝く星があります。それが金星——明けの明星、宵の明星として、古代から人々を魅了してきた天体です。
占星術において金星は、愛と美、喜びと調和を司る天体とされています。この金星は、ギリシャ神話の美の女神アフロディーテ(ローマ神話ではヴィーナス)と対応し、その神話的な性質が占星術の解釈に深く反映されています。
木星が「拡大」と「幸運」をもたらすなら、金星は「魅力」と「調和」をもたらします。力強さよりも優雅さ、征服よりも魅了——それが金星のエネルギーです。
本記事では、アフロディーテ/金星が占星術においてどのような意味を持ち、私たちの人生にどのような影響を与えるのかを探ります。
アフロディーテの神話と金星の象徴性

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海の泡から生まれた女神
アフロディーテは、最も美しい誕生の物語を持つ女神です。
クロノスが父ウラノスを倒したとき、切り落とされた男性器が海に投げ込まれました。その周りに白い泡が立ち、その泡から美の女神が誕生したのです。
キプロス島の海岸に打ち上げられたアフロディーテは、全裸でありながら完璧な美しさを放ち、彼女が歩くところには花が咲き、鳥たちが歌いました。
この「海から生まれた」という起源は重要です。海は感情の領域であり、無意識の深淵です。アフロディーテは、理性や論理を超えた、本能的な魅力と欲望の化身なのです。
美と愛の力
アフロディーテは、単なる容姿の美しさだけでなく、あらゆる形の愛と美を司ります。
- エロス(官能的な愛): 肉体的な魅力と欲望
- フィリア(友愛): 調和と親密さ
- アガペー(無償の愛): 慈悲と受容
- 美的感覚: 芸術、音楽、自然の美への感受性
- 官能性: 五感を通じた喜び
アフロディーテの力は強大でした。神々も人間も、彼女の魅力の前では無力でした。彼女が欲すれば、誰もがその虜になったのです。
魔法の帯とリンゴ
アフロディーテは、「ケストス」と呼ばれる魔法の帯を持っていました。この帯を身につけると、あらゆる者が彼女に恋をせずにはいられなくなります。
また、「黄金のリンゴ」の物語も有名です。「最も美しい女神へ」と記されたリンゴをめぐって、アフロディーテ、ヘラ、アテナが争いました。パリスの審判で勝利したアフロディーテは、トロイア戦争の引き金となる——美の力は、時に世界を動かすほど強いのです。
アフロディーテの多面性
美の女神は、優しいだけの存在ではありませんでした。
愛と欲望は、時に激しく、嫉妬深く、破壊的です。アフロディーテに背いた者、あるいは彼女の美を侮辱した者には、容赦ない報復が待っていました。
また、彼女は鍛冶神ヘファイストスの妻でありながら、軍神アレスと不倫をし、美少年アドニスに恋をしました。結婚と不倫、純愛と官能——すべてがアフロディーテの領域なのです。
占星術における金星の意味
基本的な象徴
金星は以下のものを象徴します。
- 愛と関係性: 恋愛、結婚、人間関係の調和
- 美と芸術: 美的センス、芸術性、創造性
- 喜びと快楽: 楽しみ、娯楽、官能的な喜び
- 魅力と優雅さ: 人を惹きつける力、社交性
- 価値観: 何を美しいと感じるか、何を大切にするか
- 所有と享受: 物質的な豊かさ、感覚的な満足
- 調和とバランス: 平和、協力、外交的手腕
金星のポジティブな影響
金星が強く働くとき、人生には以下のような恩恵がもたらされます。
人間関係の調和: 人々との関係が滑らかになり、愛され、受け入れられる感覚が増します。恋愛においては、魅力が増し、良い出会いに恵まれます。
美的感覚の開花: 芸術や音楽、ファッション、インテリアなど、美しいものへの感受性が高まります。創造的な表現も豊かになります。
喜びと満足: 人生を楽しむ能力が高まり、小さな幸せに気づけるようになります。五感を通じた喜び——美味しい食事、心地よい香り、美しい景色——が増します。
社交性と人気: 人々が自然に集まってくるような魅力が生まれます。社交の場でも、自然体で優雅にいられます。
経済的な豊かさ: 金星は牡牛座の支配星でもあり、物質的な豊かさとも関連します。ただし、それは蓄積よりも享受——得たものを美しく、心地よく使う能力です。
金星の影や課題
しかし、金星にも注意すべき側面があります。
怠惰と甘え: 快楽に溺れすぎて、努力や成長を怠る。心地よさを求めるあまり、挑戦を避ける。
虚栄心: 外見や人からの評価に過度にこだわる。表面的な美しさだけを追求する。
依存: 愛や承認を他者に求めすぎて、自立できなくなる。嫌われることを恐れて、自己主張ができない。
嫉妬: 美や愛をめぐる競争心や嫉妬心。他者と比較して劣等感を抱く。
浪費: 美しいものへの欲求が制御できなくなり、経済的に無理をする。
アフロディーテの神話でも、彼女の嫉妬や報復の物語があります。美と愛の力は、バランスを欠くと破壊的にもなり得るのです。
ホロスコープにおける金星
金星の運行周期
金星は約225日(約7.5ヶ月)で太陽を一周します。つまり、一つの星座には約3〜4週間滞在します。ただし、逆行期間(約40日間、約18ヶ月ごと)には、一つの星座に数ヶ月留まることもあります。
金星の8年周期も興味深い特徴です。8年後、金星は同じ位置に戻ります。そして、この8年間で金星が描く軌道を地球から見ると、五芒星(ペンタグラム)の形になります——これは偶然ではなく、金星と美、そして神聖幾何学の深い関係を示しています。
出生図における金星の位置
出生図の金星の位置は、以下のことを示します。
星座: どのような愛し方をするか、何を美しいと感じるか ハウス: 人生のどの領域で愛と美を経験するか アスペクト: 他の天体とどのように連携して働くか
例えば
- 金星が牡羊座: 情熱的で直接的な愛、大胆で革新的な美的センス
- 金星が天秤座: 調和を重んじる愛、洗練された古典的な美意識
- 金星が第2ハウス: 物質的な豊かさと官能的な喜びを重視
- 金星が第7ハウス: パートナーシップを通じて愛と美を経験
トランジット金星
現在運行中の金星(トランジット金星)が出生図のどこを通過しているかで、今の時期の愛と喜びのテーマが分かります。
金星が重要な天体やポイントを通過するとき、恋愛の出会いがあったり、創造性が高まったり、美しいものへの投資欲が増したりします。
金星の逆行
約18ヶ月ごとに、金星は約40日間逆行します。
この期間は、愛や価値観を見直す時期とされています。過去の恋愛を振り返ったり、本当に大切にしたいものが何かを考えたり、美的センスが内面化したりします。
新しい恋愛を始めるより、既存の関係を深める時期。派手な変化よりも、内省の時期なのです。
金星と植物の関係
アフロディーテの聖なる植物
アフロディーテに捧げられた植物は、占星術でも金星の植物とされています。
バラ

アフロディーテの最も神聖な花。彼女の誕生と同時に咲いたとされ、恋人アドニスの血で赤く染まった——バラは愛と美、情熱と犠牲の象徴です。
金星との関連
- 官能的な香り: 五感を刺激する
- 美しさと棘: 美には代償がある
- 多様な色と形: 愛の多様性
バラのエッセンシャルオイルは、心を開き、自己愛を育み、ハートチャクラを活性化するとされています。
マートル(ギンバイカ)

アフロディーテがキプロス島に上陸したとき、裸を隠すために用いた植物。結婚式の花として古代から使われ、純潔と愛の永続を象徴します。
白い星形の花と甘い香りは、清らかな愛と喜びを表現しています。
リンゴ

「黄金のリンゴ」の物語で有名。美と誘惑の象徴。エデンの園の知恵の実もリンゴとされ、意識の目覚めと官能性を示します。
金星の植物の特徴
金星に対応する植物は、一般的に以下の特徴を持ちます。
美しい花: 視覚的に魅力的で、装飾性が高い 甘い香り: 官能的で心地よい芳香 果実や種子: 豊穣性、創造性の象徴 柔らかな葉: 優しさ、受容性を表す ピンクや白、淡い色: 女性性、優雅さの色
金星の植物例
- ローズ: 愛と美の女王
- ジャスミン: 官能的な夜の花
- イランイラン: エキゾチックな愛の香り
- アップルブロッサム: 純粋な美しさ
- ラベンダー: 優雅な癒し

金星の植物療法
占星術ハーブ学では、金星に対応する植物は以下のような効能を持つとされます。
腎臓と泌尿器系: 金星はこれらの器官を支配 ホルモンバランス: 女性性、生殖機能のサポート 心の癒し: ストレス緩和、愛の欠乏感の癒し 美肌効果: 肌を美しく保つ
金星のエネルギーを活用する
金星が強い時期にすべきこと
金星が好調に働く時期(良いアスペクトの時や、あなたの出生図の重要なポイントを通過する時)には
恋愛と関係性: 新しい出会いを求めたり、既存の関係を深めたり。デートや告白に良い時期。
美容とファッション: イメージチェンジ、美容投資、ワードローブの更新。自分を美しくすることへの投資。
芸術と創造: 創作活動、芸術鑑賞、音楽やダンス。美的センスが冴える時期。
社交と交流: パーティー、ネットワーキング、人間関係の構築。自然に魅力が増す時期。
自己愛の育成: 自分を大切にする、自分の価値を認める、セルフケア。
金星を強化する実践
金星のエネルギーを日常生活に取り入れる方法
金曜日の活用
金曜日(Friday)は金星の日です(Venus day → Vendredi → Friday)。金曜日に
- 美容やファッションに時間を使う
- 恋人や友人と過ごす
- 美味しいものを食べる、美しい場所を訪れる
- ピンクや緑の服を着る(金星の色)
金星の瞑想
金星の愛と美のエネルギーを感じる瞑想
- 静かな場所でリラックス
- ハートチャクラ(胸の中心)に意識を向ける
- ピンクや緑の光が胸から広がるイメージ
- 「私は愛され、価値がある。私は美しい」というアファメーション
- 自己愛と他者への愛を感じる
美の祭壇
金星の象徴を集めた美の空間
- ピンクや緑、銅色の布やキャンドル
- バラの花やローズクォーツ
- 鏡(自己を映し、認める)
- 美しい芸術作品や写真
- 甘い香りのお香やアロマ
感覚を磨く実践
金星は五感の喜びを司ります。
- 視覚: 美術館、美しい景色、ファッション
- 聴覚: 音楽、美しい声、自然の音
- 嗅覚: 香水、アロマ、花の香り
- 味覚: 美味しい食事、お茶の時間
- 触覚: 肌触りの良い布、マッサージ、スキンケア
金星と牡牛座・天秤座
二つの顔
金星は、牡牛座と天秤座の二つの星座を支配します。これは、金星が二つの異なる側面を持つことを示しています。
金星 in 牡牛座 – 官能的な金星
牡牛座の金星は、地のエレメントを通じて表現されます。
- 物質的な美: 形あるもの、触れられるもの
- 官能性: 五感を通じた喜び、身体的な快楽
- 安定した愛: 持続性、忠実さ、安心感
- 所有: 美しいものを手に入れ、保持する
- 自然の美: 大地、植物、肉体の美しさ
ここでの金星は、アフロディーテが海から上陸し、地上の喜びを体現する姿です。
金星 in 天秤座 – 理想的な金星
天秤座の金星は、風のエレメントを通じて表現されます。
- 調和と美: バランス、対称性、洗練
- 関係性の美: 他者との調和、外交的な魅力
- 知的な愛: 会話、理解、精神的なつながり
- 美的理想: 完璧な美への憧れ、芸術性
- 公正さ: 美しい関係のための平等と公平
ここでの金星は、アフロディーテが知性と優雅さで人々を魅了する姿です。
あなたの金星はどちらに近いか
出生図の金星が牡牛座や蠍座、山羊座などの地・水のサインにある人は、牡牛座的な金星——つまり、官能的で物質的な愛と美を好む傾向があります。
一方、天秤座や水瓶座、双子座などの風・火のサインにある人は、天秤座的な金星——つまり、理想的で知的な愛と美を好む傾向があります。
金星の智慧を生きる
アフロディーテの教え
アフロディーテの神話から学べる人生の智慧
自己愛の重要性: 自分を愛せない者は、他者を本当には愛せません。アフロディーテは自分の美しさを知り、それを恥じませんでした。
喜びへの権利: 人生は苦しみだけではありません。美しいもの、楽しいこと、快楽——これらを享受することは、罪ではなく権利です。
愛の多様性: 一つの形だけが「正しい愛」ではありません。情熱も、穏やかさも、友情も、官能も——すべてが愛の表現です。
美は主観的: 「最も美しい女神」を決める審判はありましたが、真の美は一つの基準では測れません。あなたが美しいと感じるもの、それがあなたにとっての美なのです。
現代における金星の活用
現代社会で金星のエネルギーを活かすには
自己価値の確立: 他者の評価に頼らず、自分自身の価値を認める。
美への投資: 時間とお金を、美しいもの、心地よいものに使う。それは贅沢ではなく、魂の栄養です。
関係性の質: 量より質。多くの浅い関係より、少数の深く調和した関係を。
感覚の回復: 忙しさの中で失われた、美を感じる能力、喜びを味わう時間を取り戻す。
バランス: 仕事と遊び、努力と休息、義務と喜び——人生のバランスを保つ。
まとめ
アフロディーテ/金星は、愛と美、喜びと調和の象徴です。占星術において金星は、人生を美しく彩る力、愛し愛される能力、そして五感を通じた喜びを味わう感性を与えてくれます。
金星のエネルギーは、木星の拡大とは異なり、より繊細で個人的です。それは大きな成功や幸運というよりも、日々の小さな美しさ、心地よい関係、満たされた瞬間——そうした質的な豊かさをもたらします。
海の泡から生まれたアフロディーテのように、金星は感情の深いところから湧き上がる、美への渇望と愛への憧れを表しています。
出生図の金星は、独自の「愛し方」「美の感じ方」を示しています。その位置を理解することで、自分が本当に大切にしたいもの、心から美しいと感じるものが明確になるでしょう。
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