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ブロデュウェッズ – 花から生まれた女性の悲劇

ブロデュウェッズ – 花から生まれた女性の悲劇 アイキャッチ 神々と花の物語

春の野原で——

二人の魔術師が、花を集めています。

オークの花、エニシダの花、メドウスイートの花——

白く、黄色く、甘い香りを放つ、完璧な花々を。

そして、魔法の言葉と共に——

花々は、形を変え始めました。

花びらは肌に、茎は髪に、香りは息に——

やがてそこに立っていたのは、一人の女性でした。

ブロデュウェッズ——「花の顔」という名の、この世で最も美しい女性。

彼女は、ただ一つの目的のために創られました——ある若い男の妻となるために。

しかし、創造主たちは知らなかったのです。花から作られた女性にも、心が芽生えることを。望みが生まれることを。そして——愛する権利があることを。

これは、完璧さの代償についての物語です。自由意志の目覚めについての物語です。そして——誰かの願いのために創られた者が、自分自身の人生を選ぼうとした時、何が起こるのかという、深く美しく、そして痛ましい物語です。

ウェールズの物語——マビノギオン

ウェールズの物語——マビノギオン

ウェールズ——緑の丘と古い城の国。

ドラゴンの旗がはためく、ケルトの記憶が今も生きる場所。

この国には、『マビノギオン』と呼ばれる——中世の物語集があります。

11の物語——神々と英雄、魔法と冒険、愛と裏切りの物語が、14世紀の写本に記されています。

『ヘルゲストの赤本』——

『ルゼルフの白本』——

羊皮紙の上に、ウェールズ語で記された、古い古い物語たち。

マビノギの四つの枝

マビノギの四つの枝
George Sheringham
Public Domain, Wikimedia Commons

その中でも、「マビノギの四つの枝」と呼ばれる四部作は——

ウェールズ神話の核心をなすものです。

第一の枝——ダーベッドの王プイル

第二の枝——スィールの娘ブランウェン

第三の枝——スィールの息子マナウィダン

第四の枝——マソヌウィの息子マース

そして、ブロデュウェッズの物語は——この第四の枝に語られています。

呪われた若者ルー

物語は、一人の女性から始まります。

アリアンロッド——「銀の車輪」という名の、誇り高き女性。

彼女は、グウィネズ王国の王マースの宮廷にいました。マースは不思議な王で——戦時以外は、常に処女の膝を枕にしていなければならない、という呪いを受けていました。

足持ち役の処女が結婚してしまった時、アリアンロッドの兄グウィディオンが——妹を推薦しました。

しかし——マースが、魔法の杖を差し出した時——

彼女は、二人の子を産み落としたのです。

名もなき子

一人目の子は、すぐに海へ逃げていきました——後にディランと呼ばれる、海の精霊として。

二人目の子を、グウィディオンが拾い上げました。

小さな、金色の髪をした赤ん坊——

しかし、母アリアンロッドは——

屈辱と怒りで、この子を拒絶しました。

「私の子ではない。私は、あの子に何も与えない」

そして、三つの呪いを——この小さな命に投げつけたのです。

三つの呪い

第一の呪い——名

「あの子は、私から名前をもらわない限り——決して名前を持てない」

ウェールズの伝統では、名前は、その人の本質であり、運命であり、社会における存在そのものです。

名前のない者は、人として認められません。

グウィディオンは、策略を用いて、アリアンロッド自身の口から、名前を引き出しました。

「ルー・スキルフル・ハンド(ルー・スァウ・ゲフェス)」——「器用な手のルー」。

(これは、アイルランドの光の神ルーと同じ名前です)

しかし、母は怒り——二つ目の呪いを投げつけました。

第二の呪い——武器

「あの子は、私が武器を与えない限り——決して武器を持てない」

騎士にとって、武器は——名誉の証です。

武器のない騎士は、騎士ではありません。

再び、グウィディオンは策略を用いて、アリアンロッド自身の手から、剣と槍を受け取らせました。

しかし、真実を知った母は——三つ目の、最後の、そして最も残酷な呪いを叫びました。

第三の呪い——妻

「あの子は、私が選ばない限り——この地上のどんな女とも、決して結婚できない

そして、彼女は宣言しました。

「私は、決して——あの子に妻を与えない」

これは、最も深い呪いでした。

なぜなら、結婚できない者は、子孫を残せません。

領地を継ぐ正当な相続人を持てません。

社会における地位を、確立できません。

そして何より——

愛されることを、禁じられたのです。

花から女を

花から女を

ルーは成長しました——美しく、賢く、器用な手を持つ若者に。

しかし、彼には妻がいませんでした。

いえ——妻を持つことが、許されていませんでした。

グウィディオンは、育てた甥を哀れに思いました。

そして、王マースに相談しました。

「我々の魔法で——女を創れないでしょうか?」

マースは、しばらく黙っていました。

これは、前例のないことでした。

人間を——無から創る?

いえ、厳密には「無」からではありません。

「花から」——

春の野原へ

二人の魔術師は、春の野原へ出かけました。

そして、三種類の花を集め始めました。

慎重に、丁寧に——

まるで、最も貴重な宝石を選ぶように。

三つの花

オークの花

Blodau’r Derwen(ブロダウル・デルウェン)——オークの花。

春、オークの巨木は——小さな、ほとんど目立たない花をつけます。

黄緑色の房状の花——風に揺れる、柔らかな花序。

オークは、力の木です。

王の木、雷神の木——

そして、長寿と持続力の象徴。

マースとグウィディオンは、オークの花を——

慎重に摘み取りました。

「これが、彼女の強さとなる」

エニシダの花

Blodau’r Banadl(ブロダウル・バナドル)——エニシダの花。

黄金色に輝く、甘い香りの花——

春の丘を、まるで炎のように覆う花。

エニシダは、野生の美しさを持つ植物です。

荒れ地でも育ち、誰に頼ることもなく——

自由に、大胆に咲き誇ります。

「これが、彼女の美しさとなる」

メドウスイートの花

Blodau’r Erwain(ブロダウル・エルワイン)——メドウスイートの花。

クリーム色の、泡のような小さな花の集まり——

蜂蜜とアーモンドを混ぜたような、甘く優しい香り。

水辺に咲く、柔らかな花。

中世では、床に敷く草として使われました——

踏まれるたびに、甘い香りを放つ。

「これが、彼女の優しさとなる」

魔法の言葉

三つの花が集まりました。

マースとグウィディオンは、円を描き

古い言葉で、呪文を唱え始めました。

花びらは渦を巻き、茎は絡み合い、香りは形を持ち始め

そして、光が消えた時、そこに立っていたのは、一人の女性でした。

完璧な花嫁

彼女は、完璧でした。

肌は、メドウスイートの花びらのように——白く、滑らかで

髪は、エニシダの花のように——金色に輝き

立ち姿は、オークのように——優雅で、しなやかで

そして——

誰も、これほど美しい女性を見たことがありませんでした。

名前

マースは、彼女に名前を与えました。

「ブロデュウェッズ(Blodeuwedd)」

——「花の顔」。

あるいは、「花々」という意味。

彼女の本質を、そのまま表す名前。

結婚

ルーは、ブロデュウェッズを見た瞬間、恋に落ちました。

彼女の美しさに。

彼女の優しさに。

そして何より——

彼女が、自分のために創られたという事実に。

結婚式が、盛大に行われました。

ルーは、妻を得ました。

呪いは、破られました。

すべてが、完璧に見えました。

しかし——

誰も、ブロデュウェッズ自身に、聞きませんでした。

「あなたは、これで幸せですか?」と。

城に一人

結婚して、しばらくは、幸せだったのかもしれません。

ルーは優しい夫でした。

美しい城を、妻に与えました。

何不自由ない生活を、保証しました。

しかし——

空っぽな日々

ブロデュウェッズは、気づき始めました。

自分が、何も選んでいないことに。

  • 生まれることを、選んでいない
  • この姿を、選んでいない
  • この名前を、選んでいない
  • この夫を、選んでいない
  • この人生を、選んでいない

彼女は、ただ選ばれたのです。

他の誰かの必要のために。

他の誰かの願いのために。

一人の時間

ルーは、しばしば城を留守にしました。

王としての務め、狩り、旅——様々な理由で。

そして、ブロデュウェッズは、広い城の中で一人でした。

窓から、外を眺めました。

緑の丘、青い空、自由に飛ぶ鳥——

そして彼女は、初めて自分は檻の中の鳥だと感じ始めたのです。

黄金の檻かもしれません。

美しい檻かもしれません。

しかし——檻は、檻でした。

狩人グロヌー

ある日、城の近くで、狩りをしている一行がありました。

グロヌー・ペブル——ペンリン領主、「輝く者グロヌー」。

彼は、鹿を追って日暮れまで、森の中を駆け回っていました。

そして気づけば、帰り道が分からなくなっていました。

城の灯り

暗闇の中で、グロヌーは遠くに、城の灯りを見つけました。

「あそこで、一晩泊めてもらおう」

彼は、門を叩きました。

そして、ブロデュウェッズが、彼を迎え入れました。

視線が交わる

二人の目が、合いました。

その瞬間、何かが起こりました。

ブロデュウェッズは、感じました——

これまで感じたことのない、何かを。

心臓が、速く打ち始めました。

顔が、熱くなりました。

グロヌーも、同じでした。

彼は、これほど美しい女性を——

いえ、これほど心を動かす女性を、見たことがありませんでした。

選んだ愛

ブロデュウェッズは、初めて自分で選びました

この感情を。この男を。この瞬間を。

誰かが決めたのではなく、自分の心が選んだのです。

これが、なのだと。

初めて、彼女は知りました。

禁じられた恋

グロヌーは、三日間、城に留まりました。

表向きは、道が分かるまで——という理由で。

しかし、本当の理由は——

二人とも、分かっていました。

夜の庭で

月明かりの下、庭で二人は会いました。

「私は、結婚しています」——ブロデュウェッズは言いました。

「私は、それを知っています」——グロヌーは答えました。

しかし、二人の手は重なりました。

初めての自由

ブロデュウェッズにとって、これは、初めての自由でした。

初めて、自分の意志で——

何かを選んだ瞬間。

誰かに創られた運命ではなく、自分で決めた道。

それが、たとえ裏切りと呼ばれるものであっても。

不死の男

グロヌーが去った後、ブロデュウェッズは、考え続けました。

このままでは、いけない。

二つの選択肢しかありません。

  1. グロヌーを忘れ、ルーの妻として生きる
  2. あるいは——

計画

ブロデュウェッズは、決めました。

ルーと——離れる、と。

しかし、離婚などウェールズの貴族社会では、ほぼ不可能でした。

特に、女性の側からは。

ならば——

秘密を聞き出す

ある夜、ブロデュウェッズは、ルーに、甘えるように尋ねました。

「あなたは、とても強いわ。でも——もし何かあったら、心配なの。どうすれば、あなたを守れるかしら?」

ルーは、妻の心配を——優しさだと受け取りました。

「心配しなくていい。私は、簡単には死なない」

「でも——もし、万が一……」

「……実は、私を殺す方法は、一つだけある。しかし、それは——ほとんど不可能な条件なんだ」

「教えて。知っていれば、その状況を避けられるわ」

ルーは、妻を信じて——

秘密を語り始めました。

不可能な条件

ルーの説明は、まるで謎かけのようでした。

「私は、普通の方法では死なない」

「家の中でも、外でも——殺せない」

「馬の上でも、地面の上でも——殺せない」

「昼でも、夜でも——殺せない」

「服を着ていても、裸でも——殺せない」

「では、どうすれば……?」

唯一の方法

ルーは、続けました。

「もし——誰かが、私を殺そうとするなら」

「こういう状況を、作らなければならない」

  1. 時間: 黄昏時——昼でも夜でもない時
  2. 場所: 屋根の下でも、完全な屋外でもない場所
  3. 足元: 片足は川に浮かべた大釜の縁に、もう片足はヤギの背に
  4. 服装: 服を着ているのでも、裸でもない——ネットを被った状態
  5. 武器: 一年間、日曜のミサの時間だけをかけて鍛えた槍

「そして——その槍で刺されれば——私は死ぬかもしれない」

ブロデュウェッズは、すべてを記憶しました。

一言一句、忘れずに。

裏切りの日

ブロデュウェッズは、グロヌーにすべてを伝えました。

そしてグロヌーは、一年間、毎週日曜日、ミサの時間だけ槍を鍛え続けました。

そして、すべての準備が整った時——

舞台を整える

ブロデュウェッズは、ルーに言いました。

「あなたが話してくれた、その不思議な状況——

実際には、どんな感じなのかしら?見てみたいわ」

ルーは、笑いました。

「そんな奇妙な姿、見せたくないな」

「でも、興味があるの。ね、一度だけ——」

妻の願いを、ルーは断れませんでした。

彼は、川辺に大釜を浮かべ、ヤギを連れてきました。

そして、黄昏時、屋根付きの小屋の下で

ネットを被り——片足を大釜に、片足をヤギの背に載せ、不安定なバランスで、立ちました。

「ほら、こんな感じだ。馬鹿げてるだろう?」

その瞬間——

茂みの影からグロヌーが現れました。

手には、一年かけて鍛えた槍——

そして投げました。

槍はルーの脇腹を貫きました。

ルーは、叫び声を上げ——

そして——

変身しました。

鷲になった王子

鷲になった王子

傷ついたルーは、人間の姿を保てませんでした。

彼の体は、形を変えになりました。

大きな、傷ついた鷲——

羽はぼろぼろ、鳴き声は苦しげ——

そして、空へ飛び去りました。

森の奥深く、誰も見つけられない場所へ。

グウィディオンの探索

叔父グウィディオンは、甥が消えたことを知りました。

彼は、ウェールズ中を探し回りました。

そして、遠い森の奥で一頭の豚が、毎日同じオークの木の下に行くのを見つけました。

その木の下には、腐った肉が落ちていました。

グウィディオンは、木を見上げました。

そこに——

やせ衰えた、傷ついた鷲がいました。

グウィディオンは、歌を歌いました。

古い、優しい歌——

子守唄のような、癒しの歌。

鷲は、少しずつ木を降りてきました。

そしてグウィディオンが、魔法の杖で触れた時、鷲は再びルーの姿に戻りました。

回復

ルーは、一年間、医師たちの治療を受けました。

体の傷は、癒えました。

しかし、心の傷はどうでしょうか?

最も信じていた者に、裏切られた痛みは?

フクロウへの変身

フクロウへの変身 - 罰あるいは解放

ルーが回復すると、彼は復讐に向かいました。

グロヌーを追い詰め、同じ槍で殺しました。

しかし、ブロデュウェッズは逃げていました。

森の中、丘の上——

しかし、グウィディオンが、彼女を見つけ出しました。

対峙

「なぜ、そんなことを?」

グウィディオンは、問いました。

ブロデュウェッズは、答えました——

あるいは、答えなかったかもしれません。

どんな言葉が、あったでしょうか?

「私は、自分で選びたかった」

「私は、人形ではない」

「私にも、心がある」

しかし——

グウィディオンには、理解できませんでした。

「お前を、殺しはしない」

グウィディオンは言いました。

「しかし——お前は、もう人間の姿で生きることはできない」

そして、魔法の杖を振りました。

ブロデュウェッズの体が、再び変わり始めました。

腕は翼に、足は鉤爪に、顔は——

フクロウの顔に。

新しい名前

「お前は、もうブロデュウェッズ(花の顔)ではない」

グウィディオンは宣言しました。

「これからは、ブロデュン(フクロウ)と呼ばれるだろう」

「すべての鳥から嫌われ」

「昼の光を恐れ」

「永遠に、夜だけを生きるのだ」

そして、フクロウとなった彼女は、闇の中へ飛び去りました。

花が語るもの

物語は、ここで終わります。

しかし——

問いは、残ります。

三つの花の運命

オークの花——強さを与えた花。

しかし、その強さは——自分の運命を選ぶ強さではなく、他者の意志に耐える強さでした。

エニシダの花——美しさを与えた花。

しかし、その美しさは——自分のためではなく、他者の欲望のためでした。

メドウスイートの花——優しさを与えた花。

しかし、その優しさは——自分を犠牲にする優しさであり、自分を愛する優しさではありませんでした。

創られた者の悲劇

ブロデュウェッズは、完璧に創られました。

美しく、優しく、強く——

しかし、自分自身としては、創られませんでした

彼女は、ルーの妻として

呪いを破るための手段として、創られたのです。

そして、自分の意志を持ち始めた時、創造主たちは困惑しました。

「なぜ、お前は感謝しないのか?」

「我々は、お前を無から創り出した」

「美しさを与え、地位を与え、夫を与えた」

「なぜ、それで満足しないのか?」

しかし与えられたものだけでは、人は生きられないのです。

自分で選ぶ自由がなければ、どれほど美しい檻も、檻なのです。

裏切りか、自由か

ブロデュウェッズは、夫を裏切りました。

これは、事実です。

しかし——

自分の人生を一度も選んだことのない者が、初めて自分の心に従った時、それを「裏切り」とだけ呼べるでしょうか?

フクロウの意味

フクロウは、多くの文化で知恵の鳥とされます。

しかし、ウェールズ神話では、フクロウは孤独の象徴でもあります。

昼を恐れ、夜にしか生きられない——

他の鳥たちから嫌われ、忌避される——

しかし同時に、自由に空を飛ぶ鳥でもあります。

ブロデュウェッズは、人間の姿を失いました。

しかしもしかすると、初めて本当の自由を得たのかもしれません。

誰かの妻でもなく、誰かの創造物でもなく、ただ、自分自身として夜空を飛ぶ自由を。

オークの花——強さとは

オークの花——強さとは

植物学的情報

学名: Quercus robur(ヨーロッパナラ)
科名: ブナ科コナラ属
英名: Oak, English Oak
ウェールズ語: Derwen

開花時期: 4〜5月
花の特徴

  • 雌雄同株(一つの木に雄花と雌花)
  • 雄花:黄緑色の尾状花序、垂れ下がる
  • 雌花:非常に小さく目立たない、赤みを帯びた突起
  • 風媒花(風で花粉を運ぶ)

オークの象徴

オークは、ヨーロッパ全土で——

  • 持続力
  • 王権
  • 長寿
  • 保護

を象徴してきました。

しかし、その花は驚くほど、小さく、地味です。

巨木を生む力が、こんなにも目立たない花から始まる。

ブロデュウェッズとオークの花

ブロデュウェッズに、オークの花は「強さ」を与えました。

しかし、どんな強さだったのでしょうか?

彼女は、困難に耐える強さを持っていました。

孤独に耐え、不満を隠し、期待に応える強さ——

しかし、それは——

自分のための強さだったでしょうか?

それとも、他者のための強さだったでしょうか?

オークの花は小さいけれど、自分自身で咲きます。

誰かのためではなく、ただ自然の摂理として。

ブロデュウェッズに必要だったのは、もしかすると、そういう強さだったのかもしれません。

エニシダの花——野生の美

エニシダの花——野生の美

植物学的情報

学名: Cytisus scoparius(ホウキギエニシダ)
科名: マメ科エニシダ属
英名: Broom, Scotch Broom
ウェールズ語: Banadl

開花時期: 5〜6月
花の特徴

  • 鮮やかな黄金色
  • マメ科特有の蝶形花
  • 強い甘い香り
  • 茎全体を覆うように咲く

生育環境: 荒れ地、丘陵地、道端

エニシダの象徴

エニシダは——

  • 野生の美
  • 謙虚さ(と同時に大胆さ)
  • 自立
  • 荒れ地でも育つ強さ

を表します。

プランタジネット朝の紋章でもありました——

「Planta genista」(エニシダの苗)から、王朝名が来ています。

ブロデュウェッズとエニシダの花

エニシダは、誰の助けも借りずに、荒れ地で自由に咲きます。

ブロデュウェッズに、この花は「美しさ」を与えました。

しかし、彼女の美しさは、自分自身のためではなく、他者の目のためでした。

エニシダの花が、自分自身のために咲くように、ブロデュウェッズも、自分自身のために美しくあれたなら——

物語は、違っていたかもしれません。

メドウスイートの花——甘い犠牲

メドウスイートの花——甘い犠牲

植物学的情報

学名: Filipendula ulmaria(セイヨウナツユキソウ)
科名: バラ科シモツケソウ属
英名: Meadowsweet, Queen of the Meadow
ウェールズ語: Erwain

開花時期: 6〜8月
花の特徴

  • クリーム色から白色、ピンク
  • 小さな花の密集
  • 泡のような外観
  • アーモンドと蜂蜜の混ざったような甘い香り

生育環境: 湿った草地、川岸、湖畔

メドウスイートの象徴と使用

メドウスイートは——

  • 優しさ
  • 歓待
  • 死(中世の葬儀で使われた)

を象徴します。

中世ヨーロッパでは、床に敷く「ストローイング・ハーブ」として使われました。

人々が踏むたびに、甘い香りを放つ——

踏まれることで、香りを与える花。

ブロデュウェッズとメドウスイートの花

メドウスイートは、踏まれることで、自分の美しさ、自分の香りを、他者に与えます。

ブロデュウェッズも、他者のために存在し、他者に尽くし、他者を喜ばせるために創られました。

しかし、踏まれ続ける花には、限界があります。

いつかは、枯れてしまいます。

あるいは、踏まれることを拒否し始めます。

フクロウの夜

フクロウへの変身 - 罰あるいは解放

フクロウとなったブロデュウェッズは、今も、ウェールズの森を飛んでいると言われています。

夜——

月明かりの下——

静かに、しかし自由に。

昼を失った代償

彼女は、多くを失いました。

  • 人間の姿
  • 言葉
  • 社会での地位
  • 昼の光

これらは、大きな喪失です。

しかし得たもの

しかし、彼女は得たものもあります。

  • 空を飛ぶ自由
  • 誰の所有物でもない自分
  • 夜という、誰にも邪魔されない時間
  • 静寂という、自分だけの世界

他の鳥に嫌われる理由

物語では、「すべての鳥から嫌われる」と言われます。

しかしそれは、本当に呪いだったのでしょうか?

もしかすると、それは自由の代償だったのかもしれません。

群れに属さない者は、群れから嫌われます。

しかし同時に、群れの掟に、縛られることもありません。

夜の女王

フクロウは、夜の支配者です。

他の鳥が眠る時、フクロウは世界を独り占めします。

静寂の中で——

月光の下で——

誰にも邪魔されず、誰にも命令されず、ただ、自分自身として、飛び続けます。

これは、罰でしょうか?

それとも解放でしょうか?

創造と自由意志

マースとグウィディオンは、完璧な女性を創ろうとしました。

美しく、優しく、強く——

そして、従順であることを、期待しました。

しかし——

予期せぬ覚醒

彼らは、計算に入れていませんでした。

心は、予測できないということを。

花から創られた体に、いつの間にか、魂が宿りました。

そして魂は、自由を求め始めたのです。

創造主の責任

何かを創る時、創造主には責任があります。

しかし、その責任とは創ったものを所有することでしょうか?

それとも、創ったものが自由に生きることを、許すことでしょうか?

マースとグウィディオンは、前者を選びました。

ブロデュウェッズが、期待通りに生きなかった時、彼らは、それを「裏切り」と呼びました。

しかし——

問い

もし、あなたが誰かの願いのためだけに創られたら?

自分の意志を持つことを、許されなかったら?

そして、初めて自分の心に従った時、それを「罪」と呼ばれたら?

あなたは、どう感じるでしょうか?

花は、ただ咲く

野原を歩くと、オークの花、エニシダの花、メドウスイートの花が、

それぞれの季節に、それぞれの場所で、咲いています。

それらは、誰かのために咲いているのでしょうか?

いいえ。

花は、ただ自然の摂理として、咲きます。

誰かに創られたからではなく——

誰かに命じられたからでもなく——

ただ、自分自身の本質に従って。

もしブロデュウェッズが花のままだったら

もし、ブロデュウェッズが人間の姿にならず、花のままだったら——

彼女は、野原で自由に咲いていたでしょう。

風に揺れ——

雨に濡れ——

太陽の下で輝き——

誰の所有物でもなく、誰の妻でもなく——

ただ、自分自身として。

人間になることの代償

人間の姿を得ることは、祝福だったのでしょうか?

それとも、呪いだったのでしょうか?

人間になることで、ブロデュウェッズは

  • 意識を得ました
  • 感情を得ました
  • 自由意志を得ました

しかし同時に——

  • 苦しみを知りました
  • 孤独を知りました
  • 裏切ることの罪を知りました

すべての「創られた者」へ

期待に応え続けるか——

自分の声に従うか。

どちらが正しいか——

答えは、ありません。

どちらを選んでも、代償があります。

ブロデュウェッズは、自分の声を選び、すべてを失い、そして——

夜空の自由を得ました。

花の顔のまま、美しく、完璧に、期待通りに生きますか?

それともフクロウになっても、自分自身として飛びますか?

答えは、一つではありません。

そして、どちらを選んでも——

責める権利は、誰にもないのです。


“Nid da lle gellir gwell”
(より良いものがあり得る場所は、良い場所ではない——ウェールズの諺)

花から生まれた女は、
花のままでは、生きられなかった。

人間になり、
心を持ち、
愛を知り——

そして、
失った。

しかし、フクロウとなって、
夜空を飛ぶ今——

彼女は、
初めて、
自分自身なのかもしれない。

誰かの創造物ではなく、
誰かの期待でもなく——

ただ、
ブロデュウェッズ。

いえ——

ブロデュン。

夜の、自由な、
鳥。


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