小さな白い花びらが太陽に向かって咲く姿は、まるで大地からの感謝の祈りのよう。カモミールは、その可憐な外見からは想像できないほど豊かな恵みを私たちに与えてくれる、自然界の贈り物です。
一言で「カモミール」と言っても、実は主にジャーマンカモミールとローマンカモミールという二つの種類があることをご存知でしょうか?それぞれが持つ独特の効能や、香りの違いを知ることは、カモミールの力を最大限に引き出す鍵となります。
小さな白い花が教えてくれる、自然との調和の中にある真の美しさを、一緒に発見していきましょう。
カモミールとは
基本情報
学名: Matricaria chamomilla(ジャーマンカモミール)、Chamaemelum nobile(ローマンカモミール)
科名: キク科
原産地: ヨーロッパ、西アジア
開花期: 5月〜10月
草丈: 20〜60cm
植物としての特徴
カモミールは、キク科に属する一年草(ジャーマンカモミール)または多年草(ローマンカモミール)です。細かく切れ込んだ羽状の葉が特徴的で、茎は直立し、枝分かれしながら成長していきます。
最も印象的なのは、その花の構造です。中央の黄色い部分(筒状花)を、純白の舌状花が取り囲む姿は、まさに太陽を模したような形。古代エジプトの人々が太陽神ラーに捧げたという逸話も、この花の形を見れば納得できます。
花を軽く指で触れてみると、ほのかに甘いリンゴのような香りが立ち上がります。この香りこそが、カモミールの真の魅力の入り口なのです。
ジャーマンカモミール(Matricaria chamomilla)

別名「カミツレ」とも呼ばれ、より薬効が高いとされています。花の中央部分が盛り上がり、コーン状になるのが特徴。一年草で、こぼれ種でも良く育つ逞しさを持っています。
ローマンカモミール(Chamaemelum nobile)

多年草で、地面を這うように広がる性質があります。花は平らで、より強い香りを放ちます。芝生代わりに植えられることもあり、「グランドカバープランツ」としても愛されています。
4000年の時を越えて受け継がれる智慧
古代文明との深い結びつき
カモミールは、古代エジプト時代から「神聖な花」として崇められ、ヨーロッパでは「マザーハーブ」と呼ばれるほど親しまれてきました。その歴史は実に4000年以上にも及びます。特に古代エジプトでは、太陽神ラーに捧げる神聖な花として使われていたほどです。
ミイラ作りにも使用されていたカモミールは、永遠の命への願いとともに大切に扱われていました。古代ギリシャでは「大地のリンゴ」を意味する「Chamaimelon(カマイメロン)」と呼ばれ、その名前が現在の「Chamomile」の語源となっています。
中世ヨーロッパでは「医師の母」や「植物の医師」と呼ばれ、修道院の薬草園には必ず植えられていました。弱った植物の近くにカモミールを植えると、その植物が元気になるという言い伝えもあり、「コンパニオンプランツ」としても重宝されてきました。
日本との出会い
日本にカモミールが伝来したのは、比較的遅く、江戸時代後期のことです。 オランダから薬草として持ち込まれ、その清らかで可憐な花の姿と、人々の心と体を癒やす力から、「カミツレ(加密列、加密爾、可密列など)」という美しい和名で親しまれるようになりました。この「カミツレ」という響きには、「神に感謝し、自然の恵みを敬う」(神つ礼)という意味が込められているという説もあり、自然との共生を重んじる日本人の精神性とも深く響き合っていたことが伺えます。
小さな花に秘められた自然の叡智

主要成分とその働き
カモミールの小さな花には、豊かな恵みが凝縮されています。
アズレン誘導体(カマズレンなど)
美しい青色を呈するこの成分は、炎症を鎮める作用があります。花を水蒸気蒸留すると現れるこの青い色素は、澄んだ空の色を花の中に閉じ込めたかのようです。
フラボノイド類(アピゲニンなど)
植物が紫外線や病原体から身を守るために作り出しす天然の色素成分。その保護作用は、私たち人間にも恩恵をもたらしてくれます。
ビサボロール
肌を穏やかに整える作用があり、敏感な状態の肌にも優しく働きかけます。
精油成分(エステル類)
あの心安らぐ香りの正体。鎮静作用があり、心身ともにリラックスさせてくれる自然のアロマテラピーです。
現代生活におけるカモミールの恵み
ストレス社会への自然からの処方箋
現代の私たちの肌は、様々なストレスにさらされています。エアコンによる乾燥、紫外線、大気汚染、そして心理的ストレス。そんな現代人の肌悩みに、カモミールは4000年前と変わらぬ優しさで寄り添ってくれます。
肌への具体的な恵み
敏感な肌への優しいアプローチ
季節の変わり目や体調の変化で敏感になった肌に、カモミールは優しく寄り添います。刺激を与えるのではなく、肌本来のバリア機能をサポートしながら、穏やかに整えていきます。
乾燥した肌への潤いの贈り物
水分と油分のバランスを整え、肌の水分蒸散を防ぐ働きがあります。まるで朝露が花びらを潤すように、肌に必要な潤いを与えてくれます。
荒れた肌への鎮静効果
アズレン誘導体(カマズレンなど)は、抗炎症作用と鎮静作用を持っています。炎症を穏やかに鎮める作用により、赤みやかゆみなどの肌トラブルを和らげます。
心と肌をつなぐ癒しの時間
カモミールの香りは、スキンケアの時間を特別なひとときに変えてくれます。忙しい日常の中で、ほんの少しの間だけでも自然の恵みを感じられる、贅沢な時間を作り出してくれるのです。
カモミールを取り入れた製品選び
成分表示の読み方
「カミツレ花エキス」「カモミラエキス」「カミツレ花油」など、様々な表記があります。成分表示で上位に記載されているものほど、より多く配合されていることを意味します。
自然への敬意が感じられる製品を
オーガニック認証(ECOCERT、COSMOS、USDA Organicなど)を取得している製品は、栽培から製造まで自然への配慮がなされている証拠です。これは単なる品質の保証以上に、自然との調和を大切にする姿勢の表れでもあります。
自分の肌との対話を大切に
どんなに優れた植物でも、すべての人に合うとは限りません。特にキク科植物にアレルギーがある方は注意が必要です。使用前のパッチテストは、自分の肌との対話の第一歩と考えましょう。
カモミール由来化粧品成分一覧
ジャーマンカモミール(Chamomilla recutita / Matricaria chamomilla)由来成分
1. カミツレ花エキス(ジャーマンカモミール花エキス)
項目 | 詳細 |
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化粧品表示名 | カミツレ花エキス |
医薬部外品表示名 | カモミラエキス(1) |
部外品表示簡略名 | カモミラエキス-1 |
INCI名 | Chamomilla Recutita (Matricaria) Flower Extract |
学名 | Chamomilla recutita (Matricaria chamomilla) |
科名 | キク科 |
抽出部位 | 花 |
配合目的 | 抗炎症、紫外線吸収補助、保湿、鎮静 |
主な効能 | ・抗炎症作用・抗アレルギー作用・鎮静・鎮痛作用・抗酸化作用・紫外線吸収補助・保湿効果 |
主要成分 | アズレン誘導体、フラボノイド類、ビサボロール |
2. カミツレ花油(ジャーマンカモミール精油)
項目 | 詳細 |
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化粧品表示名 | カミツレ花油 |
別名 | ジャーマンカモミール、カモミールブルーオイル |
INCI名 | Chamomilla Recutita (Matricaria) Flower Oil |
学名 | Chamomilla recutita |
科名 | キク科 |
産地 | エジプト(主要産地) |
採油部位 | 花 |
採油方法 | 水蒸気蒸留 |
配合目的 | 抗炎症、鎮静、保湿、香料 |
主な効能 | ・強力な抗炎症作用・鎮静・リラックス効果・抗菌作用・皮膚修復促進・アロマテラピー効果 |
主要成分 | ・α-Bisabolol(ビサボロール)・α-Bisabolol oxide A・α-Bisabolol oxide B・Spiro ether・Chamazulene(カマズレン) |
特徴 | 美しい青色を呈する精油。カマズレンによる青色が特徴的 |
3. カモミラET(美白有効成分)
項目 | 詳細 |
---|---|
化粧品表示名 | カモミラET |
医薬部外品表示名 | カモミラET |
正式名称 | 4-メトキシサリチル酸カリウム塩 |
学名由来 | Chamomilla recutita |
配合目的 | 美白(メラニン生成抑制) |
主な効能 | ・メラニン生成抑制・美白効果・抗炎症作用 |
承認区分 | 医薬部外品有効成分(厚生労働省承認) |
特記事項 | 「美白」効果を謳えるカミツレ由来成分は「カモミラET」のみ |
ローマンカモミール(Chamaemelum nobile / Anthemis nobilis)由来成分
4. ローマカミツレ花エキス
項目 | 詳細 |
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化粧品表示名 | ローマカミツレ花エキス |
医薬部外品表示名 | ローマカミツレエキス |
INCI名 | Anthemis Nobilis Flower Extract |
学名 | Chamaemelum nobile (Anthemis nobilis) |
科名 | キク科 |
抽出部位 | 花 |
配合目的 | 抗炎症、鎮静、保湿、香料 |
主な効能 | ・抗炎症作用・鎮静作用・抗酸化作用・保湿効果・アロマテラピー効果 |
特徴 | ジャーマンカモミールより香りが強く、多年草 |
5. ローマカミツレ花油
項目 | 詳細 |
---|---|
化粧品表示名 | ローマカミツレ花油 |
INCI名 | Anthemis Nobilis Flower Oil |
学名 | Chamaemelum nobile |
科名 | キク科 |
採油部位 | 花 |
採油方法 | 水蒸気蒸留 |
配合目的 | 抗炎症、鎮静、香料 |
主な効能 | ・抗炎症作用・鎮静・リラックス効果・抗菌作用・アロマテラピー効果 |
特徴 | 無色〜淡黄色の精油。ジャーマンカモミール油のような青色ではない |
その他のカミツレ由来成分
6. カミツレ花/葉/茎水
項目 | 詳細 |
---|---|
化粧品表示名 | カミツレ花/葉/茎水 |
INCI名 | Chamomilla Recutita (Matricaria) Flower/Leaf/Stem Water |
抽出方法 | 水蒸気蒸留時の蒸留水 |
配合目的 | 保湿、鎮静、溶剤 |
主な効能 | ・保湿効果・鎮静作用・肌のpH調整 |
7. カミツレ花/葉エキス
項目 | 詳細 |
---|---|
化粧品表示名 | カミツレ花/葉エキス |
INCI名 | Chamomilla Recutita (Matricaria) Flower/Leaf Extract |
抽出部位 | 花・葉 |
配合目的 | 抗炎症、保湿、抗酸化 |
成分の使い分けと特徴
美白効果について
- 美白効果を表示できるのは「カモミラET」のみ
- 他のカミツレエキス(カミツレ花エキス、カミツレエキスなど)は抽出方法の違いにより、美白効果の表示はできない
- カモミラET以外は医薬部外品の美白有効成分として承認されていない
抗炎症効果の違い
- カミツレ花油:カマズレンによる強力な抗炎症作用
- カミツレ花エキス:フラボノイド類による穏やかな抗炎症作用
- ローマカミツレ:ジャーマンカモミールより穏やかな作用
香りの特徴
- ジャーマンカモミール:甘くフルーティー(リンゴのような香り)
- ローマンカモミール:より強く、ハーブ調の香り
色の違い
エキス類:一般的に淡黄色〜茶色
カミツレ花油(ジャーマン):美しい青色(カマズレンによる)
ローマカミツレ花油:無色〜淡黄色
カモミールの成分を配合した製品
海外オーガニックブランドから
アルジタル ブライトモイスチャライジング カモミールクリーム
イタリアのオーガニックブランド。カミツレ花エキスを主要成分とし、合成着色料、合成香料、鉱物油、パラベン不使用。みずみずしいテクスチャーが特徴的です。
マルティナ カミーレハンドクリーム
ドイツの老舗ブランド。デメター認証(バイオダイナミック農法)取得。ハンドクリームという名称ですが、その優しい処方から顔や全身にも使用されています。カミツレ花エキス配合。
ジョンマスターオーガニック L&Cマルチバーム
アメリカ発のブランド。ラベンダーとローマンカモミールの精油(ラベンダー油とローマカミツレ花油)をブレンドした多機能バーム。USDAオーガニック認証取得。
メドウズ オーガニックシアバーム カモミール
イギリスのブランド。シアバターベースにカモミールエッセンシャルオイル(ローマカミツレ花油)を配合。ソイル・アソシエーション認証取得。
国産へのこだわりから
華密恋(かみつれん)シリーズ
日本のブランドで、国産カモミールにこだわり、自社農園で栽培から手がけています。薬用入浴剤をはじめ、スキンケアラインも展開。無香料・無着色・保存料不使用の徹底した低刺激処方が特徴です。カミツレ花/葉エキス配合。
まとめ
小さな白い花びらが太陽に向かって咲く姿は、まるで大地からの感謝の祈りのよう。カモミールは、その可憐な外見からは想像できないほど豊かな恵みを私たちに与えてくれる、まさに自然界からの特別な贈り物です。
この記事では、カモミールという植物の歴史的背景から、現代の美容効果、そして日々の暮らしへの取り入れ方まで、多角的にご紹介してきました。
一言にカモミールと言っても、ジャーマンカモミールとローマンカモミールの違いは、その香りや主要成分、そして得られる恩恵に現れます。それぞれの特性を知ることで、あなた自身の心と体の状態に最適なカモミールを選ぶことができるはずです。
この小さな白い花が教えてくれる、自然との調和の中にある真の美しさを、ぜひあなたの日常に取り入れてみてください。穏やかな香りと確かな恵みが、あなたの毎日をより豊かに彩ってくれることでしょう。