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オーディンと世界樹ユグドラシル – 知恵を求めた神と宇宙を繋ぐ木 | 北欧神話

オーディンと世界樹ユグドラシル – 知恵を求めた神と宇宙を繋ぐ木  アイキャッチ 神々と花 北欧神話編

世界の中心に、一本の樹が立っています。

その樹は、あまりにも巨大です。

根は、三つの世界へ。

幹は、九つの世界を貫いて。

枝は、天空を覆い尽くすほどに。

ユグドラシル – 世界樹、宇宙樹、永遠の樹。

トネリコの大木。


そして、その樹の下で、一人の神が座っています。

オーディン – 北欧の最高神、戦争の神、知恵の神、詩の神。

片目がありません。

その目は、ユグドラシルの根元の泉に沈んでいます。

知恵と引き換えに、差し出した目。


オーディンとユグドラシル。

神と樹。

知恵を求める者と、宇宙そのもの。

二つは、切り離せません。


今回は、北欧神話の中心にそびえる世界樹と、すべてを賭けて知恵を求めた神の物語です。

世界樹ユグドラシル

宇宙を支える樹

ユグドラシル──その名の意味は、「ユグ(オーディン)の馬」

なぜ、樹が「馬」なのでしょうか。

それは、後にお話しする、オーディンの壮絶な犠牲の物語に関わっています。


ユグドラシルは、トネリコの樹です。

トネリコ──モクセイ科の落葉樹。

北欧では、槍や盾の材料として使われてきました。

強靭で、しなやかで、決して折れない木。

戦士たちの命を守る、聖なる樹。


しかし、ユグドラシルは、ただのトネリコではありません。

あらゆる樹のうち、最も大きく、最も見事なもの。

その枝は、全世界の上に広がり、天空を支えています。

その根は、三つの世界へ深く伸びています。

九つの世界を内包し、すべてを繋ぐ、宇宙そのもの。


神々も、巨人も、人間も──

誰も、ユグドラシルの全体像を見ることはできません。

あまりにも大きすぎて。

あまりにも遠くまで広がっていて。

しかし、確かにそこにあります。

世界の中心に。

すべての始まりとして。

九つの世界

ユグドラシルは、九つの世界を内包しています。

三層構造で、それぞれに三つずつ。


最上層──天界

アースガルド(アースガルズ) オーディン、トール、フリッグなど、アース神族が住む世界。 黄金に輝く宮殿が立ち並び、ヴァルハラ(戦死者の館)があります。

ヴァナヘイム フレイ、フレイヤ、ニョルズなど、ヴァン神族が住む世界。 豊穣と自然の力を司る神々の国。

アールヴヘイム 光のエルフ(妖精)が住む美しい世界。 フレイが統治する、光に満ちた国。


中層──地上

ミッドガルド(ミズガルズ) 人間が住む世界。 アースガルドと海で隔てられ、巨大な蛇ヨルムンガンドが取り囲んでいます。

ヨトゥンヘイム 巨人族(ヨトゥン)が住む荒々しい世界。 神々と常に対立する、混沌の国。

スヴァルトアールヴヘイム(ニザヴェリル) ドヴェルグ(小人・ドワーフ)が住む地下の世界。 優れた鍛冶の技術を持ち、神々の宝を作ります。


最下層──冥界

ニヴルヘイム 霧と氷に覆われた、極寒の世界。 世界創造以前から存在する、原初の闇。

ムスペルヘイム 炎の巨人スルトが支配する、灼熱の世界。 ラグナロク(世界の終末)で、この炎がすべてを焼き尽くします。

ヘルヘイム 死者の国。 死の女王ヘルが統治し、戦死しなかった者たちの魂が集まります。


九つの世界が、一本の樹に支えられています。

ユグドラシルなくして、世界は存在できません。

樹が揺れれば、すべてが揺れます。

樹が倒れれば、すべてが終わります。

三つの根、三つの泉

ユグドラシルには、三本の巨大な根があります。

それぞれの根は、異なる世界へ伸び、 それぞれの根元には、泉があります。


第一の根──ウルズ(運命)の泉

アースガルドへ伸びる根。

その根元に、ウルズの泉があります。

運命の泉とも呼ばれます。

この泉のほとりに、三人の女神が住んでいます。

ノルン(運命の三女神)──

ウルズ(Urðr)──過去 ヴェルザンディ(Verðandi)──現在 スクルド(Skuld)──未来

彼女たちは、すべての生命の運命の糸を紡いでいます。

神々も、巨人も、人間も──

すべての運命は、ノルンの手の中にあります。

オーディンでさえ、ノルンには逆らえません。


ノルンたちは、毎日ウルズの泉の水を汲み、 泥と混ぜて、ユグドラシルに注ぎます。

樹が枯れないように。

世界が終わらないように。

しかし、それでも樹は傷ついていきます。


神々は、毎日この泉のほとりで会議を開きます。

ビフレスト(虹の橋)を渡って、ユグドラシルの元へ。

そして、世界の行く末を語り合います。


第二の根──ミーミルの泉

ヨトゥンヘイム(巨人の国)へ伸びる根。

その根元に、ミーミルの泉があります。

知恵の泉とも呼ばれます。

この泉を守るのは、ミーミルという賢い巨人。

泉の水を飲めば、あらゆる知恵を得られます。

しかし、代償が必要です。


オーディンは、この泉の水を飲みました。

右目を差し出して。

それについては、後ほど詳しくお話しします。


第三の根──フヴェルゲルミルの泉

ニヴルヘイム(冥界)へ伸びる根。

その根元に、フヴェルゲルミルの泉があります。

毒の泉とも呼ばれます。

無数の毒蛇がひしめき合う、醜悪な泉。

そして、そこに──

ニーズヘッグという竜が棲んでいます。

樹に棲む生き物たち

ユグドラシルは、ただそこにあるだけではありません。

多くの生き物が、この樹に棲み、この樹を食べ、この樹を傷つけています。


頂上──鷲フレースヴェルグ

樹の最も高い枝に、一羽の鷲が止まっています。

フレースヴェルグ──「死体を飲み込む者」という意味。

巨大な鷲で、その羽ばたきが風を起こすと言われています。

そして、その鷲の目の間には──

ヴェズルフェルニルという鷹が止まっています。

鷲の上に、さらに鷹が。

何を見ているのでしょうか。

世界の果てを。

運命の行く末を。


根元──竜ニーズヘッグ

樹の根を、竜が齧っています。

ニーズヘッグ(Níðhöggr)──「憎しみの打撃」という意味。

毒の泉に棲み、絶えずユグドラシルの根を齧り続けます。

樹を倒そうとしているのか。

それとも、ただ飢えているのか。

誰にも分かりません。


幹を上り下りする──リスのラタトスク

鷲と竜の間を、一匹のリスが走り回っています。

ラタトスク(Ratatoskr)──「齧り歯の鋭い者」という意味。

このリスは、メッセンジャーです。

鷲が何か言うと、リスは幹を下って、竜に伝えます。

竜が何か言うと、リスは幹を上って、鷲に伝えます。

しかし──

リスは、嘘をつきます。

鷲の言葉を、悪く脚色して竜に伝えます。

竜の言葉を、侮辱的に変えて鷲に伝えます。

わざと、両者を仲違いさせています。

なぜでしょうか。

それは、誰にも分かりません。

ただ、リスは楽しそうに、幹を走り回っています。


枝を食べる──四頭の牡鹿

樹の若枝を、四頭の牡鹿が食べています。

ダーイン、ドヴァリン、ドゥネイル、ドゥラスロール

彼らは、ユグドラシルの樹皮と若芽を食料にしています。

樹は、傷つきます。


そして、ヘイズルーンという山羊も、樹の葉を食べています。


ユグドラシルは、常に攻撃されています。

竜に根を齧られ、 鹿に枝を食べられ、 時間とともに老いていきます。

それでも、樹は立ち続けています。

ノルンが水を与え、 世界がまだ樹を必要としているから。

しかし、いつか──

樹は倒れます。

オーディン – すべてを知ろうとした神

Georg von Rosen – Public Domain, via Wikimedia Commons
Georg von Rosen
Public Domain, via Wikimedia Commons

最高神の孤独

オーディン(Óðinn)──北欧神話の最高神。

しかし、彼は全知全能ではありません。

雷を操るトールほど強くなく、 若さを保つイドゥンのリンゴなしには老い、 そして──

未来を知りません。


しかし、オーディンは、知っています。

ラグナロク──世界の終末が、いつか訪れることを。

その日、神々と巨人が最後の戦いを繰り広げます。

炎の巨人スルトが世界を焼き尽くします。

狼フェンリルがオーディンを飲み込みます。

そして、すべてが終わります。


オーディンは、恐れているわけではありません。

戦いを避けようとしているわけでもありません。

ただ、知りたいのです。

どうすれば、少しでも良い終わり方ができるのか。

どうすれば、新しい世界が美しく生まれるのか。

そのために、オーディンは知恵を求め続けます。

ミーミルの泉──片目の代償

ある日、オーディンはユグドラシルの根を辿りました。

ヨトゥンヘイムへ伸びる、第二の根を。

その根元に、泉がありました。

ミーミルの泉──知恵の泉。


泉のほとりに、巨人ミーミルが座っていました。

オーディンは、言いました。

「泉の水を、飲ませてほしい」

ミーミルは、答えました。

「この水は、ただでは与えられぬ。代償が必要だ」

「何が必要か」

「お前の目だ」


オーディンは、躊躇しませんでした。

右手で短剣を抜き、 左手で自分の右目を押さえ、

えぐり取りました。


そして、その目を、泉に投げ入れました。

目は、泉の底に沈んでいきました。

今も、そこにあります。

オーディンの右目が、泉の底から、世界を見つめています。


ミーミルは、角杯に泉の水を汲み、オーディンに差し出しました。

オーディンは、飲みました。

その瞬間──

世界のすべてが、見えました。

過去に何があったのか。

現在、何が起きているのか。

そして──

未来に、何が起こるのか。


オーディンは、知りました。

自分がいつか、狼に飲み込まれることを。

息子バルドルが死ぬことを。

ラグナロクが避けられないことを。

すべてを知りました。


しかし、知恵と引き換えに、片目を失いました。

オーディンは、それから「隻眼の神」と呼ばれるようになります。

帽子を深くかぶり、片目を隠して。

しかし、その隻眼で、オーディンは世界のすべてを見ています。

ユグドラシルでの苦行──ルーン文字の獲得

ユグドラシルでの苦行──ルーン文字の獲得

知恵を得たオーディンでしたが、まだ満足していませんでした。

もっと深い知識が、欲しい。

言葉の力、魔術の秘密、ルーン文字──


ある日、オーディンは決意しました。

自らを生贄に捧げる、と。


オーディンは、槍グングニルを自分の脇腹に突き刺しました。

そして、ユグドラシルの枝に、逆さ吊りにされました。

自分で、自分を吊るしました。


九日九夜。

オーディンは、樹に吊るされたまま、苦しみ続けました。

水も飲まず、 食べ物も口にせず、 誰の助けも借りず。

風に揺られながら、 槍に貫かれたまま、 ただ、耐えました。


なぜ、こんなことをしたのでしょうか。

それは、犠牲なくして、真の知識は得られないと、オーディンが信じていたからです。

何かを得るためには、何かを失わなければならない。

等価交換。

目を失って、知恵を得たように、 今度は命を賭けて、さらなる秘密を得ようとしました。


九日目の夜、オーディンは限界に達しました。

意識が遠のいていきます。

その時──

ルーン文字が、見えました。

樹の根元に、光る文字が。

オーディンは、必死に手を伸ばしました。

指先が、文字に触れました。

その瞬間──

ルーン文字のすべてが、オーディンの中に流れ込みました。


オーディンは、樹から落ちました。

地面に倒れ込みました。

しかし、手の中には──

ルーン文字の知識がありました。


ルーン文字──北欧の古代文字。

しかし、ただの文字ではありません。

魔術の文字。

一つ一つの文字に、力があります。

刻むことで、呪いをかけたり、守護したり、未来を占ったりできます。

オーディンは、この文字の秘密をすべて手に入れました。


「ユグドラシル」という名前の意味を、覚えていますか?

「ユグ(オーディン)の馬」

なぜ、樹が「馬」なのか。

それは──

オーディンが、この樹に「乗った」からです。

吊るされ、苦しみ、そして知識を得るために、 オーディンはユグドラシルを「乗り物」として使いました。

樹は、オーディンの馬でした。

犠牲の象徴

オーディンのこの苦行は、後世に大きな影響を与えました。

キリスト教の十字架刑と、似ています。

イエス・キリストも、十字架に磔にされました。

人類の罪を背負って、苦しみました。

そして、復活しました。


オーディンとイエス。

二人の物語は、響き合います。

自らを犠牲にすることで、何かを得る。

死を通過することで、新しい知識に到達する。


タロットカードに、「吊るされた男(The Hanged Man)」というカードがあります。

逆さ吊りにされた男が、描かれています。

このカードのモチーフは、オーディンだと言われています。

犠牲、忍耐、そして啓示。

すべてを失うことで、すべてを得る。

これが、オーディンの道です。

トネリコという樹

聖なる木

ユグドラシルは、トネリコ(Ash)の樹です。

トネリコ──モクセイ科の落葉樹。

学名はFraxinus


北欧では、セイヨウトネリコ(Fraxinus excelsior)が一般的です。

高さ30メートルにもなる大木。

幹は真っ直ぐに伸び、枝は空に向かって広がります。

堂々とした、力強い樹。


トネリコの木材は、非常に優れています。

強靭で、しなやかで、衝撃に強い。

そのため、古代から様々な用途に使われてきました。

槍の柄 オール(船の櫂) 家具 建築材


北欧の戦士たちは、トネリコの槍を持って戦いました。

オーディンの槍グングニルも、ユグドラシルの枝から作られたと言われています。

トネリコは、戦いの木でした。

人間の起源

北欧神話では、人間もトネリコから生まれたとされています。


世界が創られた後、オーディンと二人の兄弟(ヴィリとヴェー)が海辺を歩いていました。

そこに、二本の流木がありました。

一本はトネリコ。

もう一本はニレ(Elm)。

ニレ(Elm)

オーディンたちは、この流木を彫刻しました。

神々の作品なので、彫刻は命を宿し、動き出しました。


トネリコから、最初の男が生まれました。

名前は、アスク(Askr)──「トネリコ」という意味。

ニレから、最初の女が生まれました。

名前は、エンブラ(Embla)──「ニレ」または「蔓」という意味。


オーディンは、二人にを与えました。

ヴィリは、二人に意識と動きを与えました。

ヴェーは、二人に顔、言葉、聴覚、視覚を与えました。


こうして、人間が誕生しました。

人間は、トネリコとニレから生まれた。

樹の子供たち。

ユグドラシルの、小さな写し。


そして、興味深いことに── トネリコは真っ直ぐに伸びる槍の材料となり、ニレは包み込む盾の材料となります。

つまり人間は、「貫く強さ」と「守り抜く優しさ」の双方から生まれました。

だからこそ人間は、困難に立ち向かい、大切なものを守るためにその力を使うのです。

生まれた時から、未来を切り拓くための知恵と勇気を授かっているのです。

北欧三国(ノルウェー、スウェーデン、デンマーク)の多くの地域では、 実はセイヨウトネリコは育ちません。

気候が寒すぎるためです。


では、なぜユグドラシルがトネリコだと言われるようになったのでしょうか。

それは、13世紀のアイスランドの詩人スノッリ・ストゥルルソンが、 『エッダ』という書物の中で、 「ユグドラシルはトネリコの樹である」と記したからです。


しかし、アイスランドにも、セイヨウトネリコは育ちません。

スノッリがどうやってセイヨウトネリコの存在を知ったのかは、謎です。

おそらく、ヴァイキングたちの交易を通じて、 南方(イギリスやドイツ)の情報を得たのでしょう。


ユグドラシル神話は、もともとセイヨウトネリコが生育する地域で生まれたと考えられています。

そして、北へ伝わっていく過程で、 実際の樹を見ることなく、伝説として語り継がれたのでしょう。

他の神話のトネリコ

トネリコは、北欧神話だけでなく、他の神話にも登場します。


ギリシャ神話

トロイア戦争の英雄アキレウスの槍が、トネリコ製でした。

ケンタウロスのケイロンから譲り受けた、この槍で、 アキレウスは数々の敵を倒しました。


ケルト神話

ドルイド(ケルトの神官)たちは、トネリコを聖なる樹としていました。

トネリコの枝で魔法の杖を作り、 トネリコの下で儀式を行いました。


リトアニア神話

宇宙樹として、トネリコが登場します。

北欧神話のユグドラシルと、非常に似た役割を持っています。


トネリコは、世界中で「聖なる樹」とされてきました。

その強さ、美しさ、そして実用性から、 人々に愛され、神話に組み込まれていきました。

ユグドラシルの運命

ノルンたちを描いた絵画
ノルンたちを描いた絵画
J. L. Lund – Public Domain, via Wikimedia Commons

樹は傷ついている

ユグドラシルは、永遠ではありません。


竜ニーズヘッグが、根を齧り続けています。

四頭の牡鹿が、枝を食べ続けています。

時間とともに、樹は老いています。


ノルンたちは、毎日泉の水を注ぎます。

しかし、それでも──

樹は、衰えていきます。


ワーグナーのオペラ『ニーベルングの指環』では、こう語られます。

「オーディンが知恵を得るためにユグドラシルから枝を折り、槍を作った。 その傷から、樹は弱っていった。 葉が黄ばんで落ち、木はついに枯れてしまった」


オーディンの槍グングニルは、ユグドラシルの枝から作られました。

その槍で、オーディンは誓いを立て、契約を結びます。

しかし、その槍を作ったことが、世界樹を傷つけました。

知恵を得るための犠牲。

世界を守るための武器。

それが、世界そのものを弱らせていきました。

ラグナロク──世界の終わり

いつか、ラグナロク(Ragnarök)──神々の黄昏──が訪れます。

その日、世界は終わります。


長い冬が続きます。

三度の冬、夏が来ることなく。

フィンブルヴェト(Fimbulvetr)──「大いなる冬」。


スコルが太陽を飲み込みます。

ハティが月を飲み込みます。

星は空から落ちます。

世界は、闇に包まれます。


フェンリルが鎖を断ち切って、解放されます。

大蛇ヨルムンガンドが海から上がってきます。

死者の軍勢が、ナグルファル(死者の爪で作られた船)に乗って現れます。

炎の巨人スルトが、燃える剣を持って南から進軍します。


そして──

ユグドラシルが、揺れます。

根から梢まで、激しく震えます。


神々と巨人の最後の戦いが始まります。

オーディンは、フェンリルと戦い、飲み込まれます。

トールは、ヨルムンガンドと戦い、相打ちになります。

フレイは、スルトと戦い、敗れます。


スルトが、炎の剣を振るいます。

炎が、世界を覆い尽くします。

ユグドラシルは、燃えます。

九つの世界が、炎に包まれます。


そして、すべてが海に沈みます。

ユグドラシルは、倒れます。

世界は、終わります。

再生──新しい世界

しかし──

それは、完全な終わりではありません。


海が引きます。

大地が、再び現れます。

緑が、芽吹きます。


ユグドラシルの幹の中に、二人の人間が隠れていました。

リーヴ(Líf)──「生命」という意味。

リーヴスラシル(Lífþrasir)──「生命に執着する者」という意味。

男と女。


彼らは、ユグドラシルの樹液を飲んで、生き延びました。

そして、新しい世界に降り立ちます。

新しい人類の祖となります。


バルドル(オーディンの息子、光の神)が、冥界から戻ってきます。

いくつかの神々が、生き残っています。

新しい世界を、導きます。


新しいユグドラシルが、芽吹きます。

若い樹が、空に向かって伸びていきます。


すべては、繰り返します。

終わりは、始まりです。

死は、再生です。

ユグドラシルは、永遠に立ち続けます。

樹という宇宙

生命の樹

ユグドラシルは、ただの樹ではありません。

宇宙そのものです。

生命そのものです。


樹は、三つの領域を繋ぎます。

──地下、冥界、過去。

──地上、現在、生きる世界。

──天空、未来、神々の世界。


この構造は、多くの文化で共通しています。

世界樹生命の樹宇宙樹──

様々な神話に、巨大な樹が登場します。


マヤ文明のセイバ

Kapok tree Honolulu – via Wikimedia Commons

高さ60メートルにもなる巨木。

天界、地上、地下界を繋ぐ聖なる樹。


カバラの生命の樹

Public Domain, via Wikimedia Commons

ユダヤ教神秘主義の象徴。

10の球(セフィロト)と22の径(パス)で構成される図。

宇宙の構造と、人間の魂の構造を表します。


仏教の菩提樹

ブッダが悟りを開いた樹。

Public Domain, via Wikimedia Commons

種から芽が出て、 幹が伸びて、 枝が広がって、 葉が茂って、 花が咲いて、 実がなって、 種が落ちて、

また、新しい樹が生まれます。


樹は、循環の象徴です。

生と死、始まりと終わり、 すべてが繋がっている。

ユグドラシルは、その完璧な象徴です。

オーディンという生き方

オーディンは、完璧な神ではありません。

片目を失い、 息子を失い、最後には自らも逃れられぬ宿命に飲み込まれます。


しかし、オーディンは諦めません。

知りたいから。

理解したいから。

少しでも良い未来を作りたいから。


目を差し出し、 樹に吊るされ、 苦しみながら、

知恵を得ました。



オーディンは、戦いの神です。

しかし、ただの戦士ではありません。

詩の神でもあり、知恵の神でもあります。


戦う力だけでなく、 知る力、 理解する力、 言葉の力──

これらすべてを、オーディンは求めました。


そして、ユグドラシルは、その旅の舞台でした。

樹に吊るされることで、ルーン文字を得ました。

樹の根元の泉で、知恵を得ました。

今も立つ樹

ユグドラシルは、神話の中にあります。

しかし──

本当に、そこにあるのかもしれまん。



樹の中を、何かが流れています。

水が、養分が、生命が。

根から幹へ、幹から枝へ、枝から葉へ。

そして、葉から根へ、また戻っていきます。

循環しています。


樹の根は、地下深くまで伸びています。

見えないけれど、確かにそこにあります。

過去を支えています。


樹の幹は、真っ直ぐに立っています。

今、この瞬間を生きています。

現在を体現しています。


樹の枝は、空に向かって広がっています。

まだ見ぬ未来へ、伸びています。

可能性を秘めています。


一本の樹が、過去・現在・未来を繋いでいます。

地下・地上・天空を結んでいます。

それが、ユグドラシルです。


オーディンは、まだそこにいるかもしれません。

隻眼で、世界を見つめながら。

知恵を求め続けながら。

ユグドラシルの下で。


樹は、今も立っています。

世界を支えながら。

すべてを繋ぎながら

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