古代インドの聖典ヴェーダに記されたナクシャトラ(星宿)は、インド占星術で使われる27の星座として、数千年にわたって人々の人生を導いてきました。西洋占星術が太陽の動きに基づく12星座を重視するのに対し、インド占星術では私たちの内面に大きな影響を与える「月」の動きに重点を置いています。
それぞれのナクシャトラには固有の支配神(デバータ)が存在し、その神々の神話こそが、そのナクシャトラ生まれの人の魂の本質と人生の使命を示しています。インド神話においてはダクシャの娘とされ、月神ソーマの妃とされるナクシャトラたちの物語は、単なる星座以上の深い意味を持っているのです。
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- 活用ガイド
- ナクシャトラの神話から学ぶ人生の智慧
27ナクシャトラの神話と支配神

第1章:おひつじ座のナクシャトラ(1-2番)
1. アシュビニー(Ashwini)0°00′-13°20′
支配神:アシュビニー・クマーラ(双子の馬頭神・天の医師)
神話: 太陽神スーリヤと雲の女神サランユーの息子たち。母が太陽の強烈な光に耐えかね、馬の姿で逃げ出した際、父も馬となって追いかけ、その結果生まれた双子の馬頭神。神々の医師として、あらゆる病気や怪我を瞬時に治癒する力を持つ。
特徴
- 迅速な判断力と行動力
- 治癒とヒーリングの才能
- 若々しい活力とエネルギー
- 新しい技術への適応力
- 医療・救急関係の適性
2. バラニー(Bharani)13°20′-26°40′
支配神:ヤマ(死神・正義の神)
神話: ヤマは死と正義を司る神で、人間界で最初に死んだ存在として、死後の世界の王となった。魂を秤にかけ、生前の行いに応じて転生先を決める公正な裁判官。バラニーは「運び手」を意味し、魂を次の世界へ運ぶ星座。
特徴
- 強い責任感と正義感
- 変革と再生の力
- 創造的破壊を恐れない
- 深い洞察力
- 法律・裁判関係の適性
第2章:おうし座のナクシャトラ(3-4番)
3. クリッティカー(Krittika)26°40′-40°00′
支配神:アグニ(火神・浄化の神)
神話: アグニは聖なる火の神で、神々と人間を結ぶ仲介者。供物を焼いて神々に届け、不浄なものを燃やし尽くす浄化の力を持つ。クリッティカーは6人の養母(プレアデス星団)として、軍神カルティケーヤ(スカンダ)を育てた。
特徴
- 強い意志力と情熱
- 浄化と変容の力
- リーダーシップの才能
- 教育者・指導者の適性
- 正義のための戦い
4. ロヒニー(Rohini)40°00′-53°20′
支配神:プラジャーパティ(ブラフマー・創造神)
神話: 月神チャンドラの27人の妻(ナクシャトラの擬人化)の中で最も愛された美しい妻。「赤い女神」として知られ、創造と豊穣の象徴。父ダクシャの呪いにより月の満ち欠けが生まれた物語の中心人物。
特徴
- 深い愛情と魅力
- 創造性と芸術的才能
- 官能的な美しさ
- 母性的な養育力
- 芸術・美容関係の適性
第3章:ふたご座のナクシャトラ(5-7番)
5. ムリガシラ(Mrigashira)53°20′-66°40′
支配神:ソーマ(月神・不死の神酒)
神話: ソーマは神々の不死の神酒であり、同時に月神でもある。ブラフマーがルドラ(シヴァ)に娘ローヒニー(ロヒニー)を与えようとしたが、ルドラが彼女を追いかけ続けた結果、天空で永遠の狩りが始まった。ムリガシルシャは「鹿の頭」を意味し、この追跡劇を象徴する。
特徴
- 探求心と好奇心
- 美しいものへの追求
- 柔軟性と適応力
- 研究・探索の才能
- 旅行や移動を好む
6. アールドラー(Ardra)66°40′-80°00′
支配神:ルドラ(シヴァの嵐の側面)
神話: ルドラはシヴァの最も激しい側面で、嵐と破壊の神。宇宙の根本的変革を促し、古いものを破壊して新しい創造の場を作る。アールドラーは「湿った」「涙」を意味し、嵐の後の清浄な世界を象徴する。
特徴
- 激しい感情と情熱
- 根本的変革の力
- 深い精神性
- 破壊と創造の循環
- 研究・変革関係の適性
7. プナルヴァス(Punarvasu)80°00′-93°20′
支配神:アディティ(無限の母神・宇宙母)
神話: アディティは無限の母神で、すべての神々の母。束縛のない自由な存在として、無限の可能性と再生力を象徴する。プナルヴァスは「再び良いもの」を意味し、困難の後の回復と希望を表す。
特徴
- 強い回復力と楽観性
- 母性的な保護力
- 無限の可能性への信念
- 教育・福祉関係の適性
- 困難を乗り越える力
第4章:かに座のナクシャトラ(8-9番)
8. プシュヤ(Pushya)93°20′-106°40′
支配神:ブリハスパティ(木星・教師神)
神話: ブリハスパティは神々の師であり、知恵と学問の神。すべての知識を司り、弟子たちに真理を教える至上の教師。プシュヤは「栄養を与える」を意味し、精神的な滋養を与える星座。
特徴
- 深い知恵と学習能力
- 教師・指導者の気質
- 精神的な豊かさ
- 教育・宗教関係の適性
- 人を育てる才能
9. アーシュレーシャー(Ashlesha)106°40′-120°00′
支配神:ナーガ(蛇神・秘密知識の守護者)
神話: ナーガは蛇の姿をした半神で、地下世界の宝物と秘密知識の守護者。毒と薬の両方を司り、変容の力を持つ。シェーシャナーガは宇宙を支える巨大な蛇として知られる。
特徴
- 深い洞察力と直感
- 秘密や神秘への関心
- 変容と治癒の力
- 心理学・オカルト関係の適性
- 執着と手放しの学び
第5章:しし座のナクシャトラ(10-11番)
10. マーガ(Magha)120°00′-133°20′
支配神:ピトリス(祖先霊)
神話: ピトリスは祖先の霊で、子孫を見守り導く存在。王族の血統と伝統の継承を司る。マーガは「偉大な」を意味し、王権と威厳を象徴する星座。
特徴
- 高貴な品格と威厳
- 伝統と家系への誇り
- リーダーシップの天性
- 政治・管理職の適性
- 祖先への敬意
11. プールヴァ・パルグニー(Purva Phalguni)133°20′-146°40′
支配神:バガ(享楽と富の神)
神話: バガは幸福、富、享楽を司る神で、人生の喜びと快楽を与える。結婚と愛の祝福をもたらし、創造的な表現を支援する。プールヴァ・パルグニーは「前の赤い果実」を意味し、成熟した美と愛を表す。
特徴
- 芸術的才能と美的センス
- 愛と享楽を重視
- 創造的表現の才能
- エンターテイメント業界の適性
- 人生を楽しむ能力
第6章:おとめ座のナクシャトラ(12-14番)
12. ウッタラ・パルグニー(Uttara Phalguni)146°40′-160°00′
支配神:アリヤマン(契約と友情の神)
神話: アリヤマンは契約、結婚、友情を司る神で、人々の間の絆を強める。約束の履行と忠誠心を重視し、社会的な調和をもたらす。ウッタラ・パルグニーは「後の赤い果実」を意味し、結婚と社会的責任を表す。
特徴
- 高い責任感と信頼性
- 契約と約束の重視
- 社会奉仕の精神
- 法律・社会事業の適性
- 長期的な関係の構築
13. ハスタ(Hasta)160°00′-173°20′
支配神:サヴィタル(太陽神・創造の光)
神話: サヴィタルは太陽の創造的側面を司り、技芸と手工芸の神でもある。「手」を意味するハスタは、巧妙な手仕事と創造的な技能を象徴する。すべての技術と工芸の守護神。
特徴
- 器用さと技術力
- 細やかな作業への適性
- 創造的な表現力
- 工芸・技術関係の適性
- 実用的な知恵
14. チトラー(Chitra)173°20′-186°40′
支配神:トヴァシュトリ(天界の建築家・工芸神)
神話: トヴァシュトリは天界の建築家で、神々の武器や装身具を作る工芸の神。美しい形を創造し、完璧な作品を生み出す。チトラーは「明るい」「絵画的な」を意味し、芸術的創造を象徴する。
特徴
- 芸術的な創造力
- 美への強いこだわり
- 完璧主義の傾向
- デザイン・建築の適性
- 独創的なアイデア
第7章:てんびん座のナクシャトラ(15-16番)
15. スヴァーティ(Swati)186°40′-200°00′
支配神:ヴァユ(風神・生命の息)
神話: ヴァユは風の神で、すべての生命に息を与える存在。自由と独立を象徴し、変化と動きをもたらす。スヴァーティは「自立した」を意味し、独立心と自由な精神を表す星座。
特徴
- 強い独立心と自由愛好
- 柔軟性と適応力
- コミュニケーション能力
- 貿易・通信関係の適性
- 変化を恐れない心
16. ヴィシャーカー(Vishakha)200°00′-213°20′
支配神:インドラーグニ(インドラ+アグニ・雷火神)
神話: インドラとアグニの結合した神格で、雷と火の両方の力を持つ。勝利と達成を司り、目標に向かって燃える情熱を与える。ヴィシャーカーは「分岐した」を意味し、多方面への発展を象徴する。
特徴
- 強い野心と達成欲
- 多才多芸な能力
- リーダーシップの資質
- 政治・ビジネスの適性
- 目標達成への執念
第8章:さそり座のナクシャトラ(17-18番)
17. アヌラーダ(Anuradha)213°20′-226°40′
支配神:ミトラ(友情と忠誠の神)
神話: ミトラは友情、忠誠、契約を司る神で、人々の間の信頼関係を築く。太陽の光として、すべてのものに公平に恵みを与える。アヌラーダは「ラーダに従う」を意味し、献身と協力を表す。
特徴
- 深い友情と忠誠心
- チームワークの重視
- 協調性と支援精神
- 外交・協力事業の適性
- 信頼関係の構築力
18. ジェシュター(Jyeshtha)226°40′-240°00′
支配神:インドラ(雷神・神々の王)
神話: インドラは神々の王で、雷と嵐を司る最高の戦士神。悪魔を倒し、天界を守る英雄。ジェシュターは「最年長」「最高位」を意味し、長老としての威厳と責任を象徴する。
特徴:
- 強力なリーダーシップ
- 保護者としての責任感
- 権威と地位への志向
- 管理職・指導者の適性
- 困難を乗り越える力
第9章:いて座のナクシャトラ(19-21番)
19. ムーラ(Mula)240°00′-253°20′
支配神:ニルリティ(破壊神・根絶の神)
神話: ニルリティは南西方向の守護神で、破壊と根絶を司る。古いものを完全に取り除き、新しい始まりの場を作る。ムーラは「根」を意味し、根本的な変革と新生を象徴する。
特徴
- 根本的変革の力
- 真理への探求心
- 破壊と創造の循環
- 研究・変革事業の適性
- 本質を見抜く洞察力
20. プールヴァ・アシャダ(Purva Ashadha)253°20′-266°40′
支配神:アープ(水神・浄化の神)
神話: アープは水の神々の総称で、浄化と清浄化を司る。すべての汚れを洗い流し、新しい生命を育む力を持つ。プールヴァ・アシャダは「前の勝利」を意味し、困難を洗い流す力を表す。
特徴
- 浄化と清浄化の力
- 困難を乗り越える強さ
- 人を励ます能力
- 教育・指導の適性
- 精神的な成長への志向
21. ウッタラ・アシャダ(Uttara Ashadha)266°40′-280°00′
支配神:ヴィシュヴェーデーヴァ(全宇宙の神々)
神話: ヴィシュヴェーデーヴァは宇宙のすべての神々を表し、普遍的な正義と善を司る。最終的な勝利と完成をもたらす力を持つ。ウッタラ・アシャダは「後の勝利」を意味し、究極の達成を象徴する。
特徴
- 普遍的な正義感
- 最終的な勝利への信念
- 高い理想と目標
- 宗教・哲学の適性
- 持続的な努力の力
第10章:やぎ座のナクシャトラ(22-23番)
22. シュラヴァナ(Shravana)280°00′-293°20′
支配神:ヴィシュヌ(維持神・保護神)
神話: ヴィシュヌは宇宙の維持と保護を司る最高神の一柱。ダルマ(正法)を守り、悪が栄える時に化身として降臨する。シュラヴァナは「聞く」を意味し、神聖な知識の学習を象徴する。
特徴
- 深い学習能力
- 伝統的知識への敬意
- 保護と維持の精神
- 教育・宗教の適性
- 持続的な発展への志向
23. ダニシュタ(Dhanishtha)293°20′-306°40′
支配神:アシュタヴァス(8つの宇宙原理)
神話: アシュタヴァスは8つの基本的な宇宙原理(地、水、火、風、空、太陽、月、星)を司る神々の集合。宇宙の根本構造と調和を表す。ダニシュタは「最も富める」を意味し、宇宙的な富と繁栄を象徴する。
特徴
- 音楽とリズムの才能
- 富と繁栄への志向
- 宇宙的な視野
- 音楽・芸能の適性
- 調和とバランス感覚
第11章:みずがめ座のナクシャトラ(24-25番)
24. シャタビシャー(Shatabhisha)306°40′-320°00′
支配神:ヴァルナ(水神・宇宙法則の守護者)
神話: ヴァルナは水を司る神で、同時に宇宙の法則(リタ)の守護者でもある。真実と正義を見極め、嘘を暴く力を持つ。シャタビシャーは「百の医師」を意味し、治癒と真理の探求を象徴する。
特徴
- 真理への探求心
- 治癒とヒーリングの才能
- 神秘的な知識への関心
- 医療・研究の適性
- 隠された真実を見抜く力
25. プールヴァ・バードラパダ(Purva Bhadrapada)320°00′-333°20′
支配神:アジャエーカパート(一本足の山羊・シヴァの化身)
神話: アジャエーカパートはシヴァの奇異な化身で、一本足の山羊の姿をした火の神。激しい変革と精神的な覚醒をもたらす。プールヴァ・バードラパダは「前の祝福された足」を意味し、精神的進化を象徴する。
特徴
- 激しい精神的探求
- 変革への強い意志
- 二面性と複雑さ
- 宗教・哲学の適性
- 極端から極端への振れ
第12章:うお座のナクシャトラ(26-27番)
26. ウッタラ・バードラパダ(Uttara Bhadrapada)333°20′-346°40′
支配神:アヒルブドニヤ(深海の蛇神・宇宙の支持者)
神話: アヒルブドニヤは深海の底に住む巨大な蛇神で、宇宙全体を支える存在。深い知恵と永続性を象徴し、最終的な解脱への道を示す。ウッタラ・バードラパダは「後の祝福された足」を意味し、究極の悟りを表す。
特徴
- 深い精神的洞察
- 持続的な忍耐力
- 宇宙的な視野
- 哲学・瞑想の適性
- 究極の真理への探求
27. レーヴァティー(Revati)346°40′-360°00′
支配神:プーシャン(栄養神・旅の守護神)
神話: プーシャンは栄養と繁栄を司る神で、旅人と家畜の守護者でもある。すべての存在を最終的な目的地へ安全に導く役割を持つ。レーヴァティーは「豊かな」を意味し、完成と到達を象徴する最後のナクシャトラ。
特徴
- 完成と到達への志向
- 他者への導きと支援
- 豊かさと繁栄の実現
- 旅行・流通業の適性
- 最終的な目標への到達
活用ガイド
神話から読み解く人生のテーマ
各ナクシャトラの神話は、その人の魂が今生で学ぶべきテーマを示しています。
支配神への祈りと瞑想
自分のナクシャトラの支配神に祈ることで、その神の力を呼び覚まし、人生の課題を乗り越える力を得られます。
相性と人間関係
支配神同士の関係性を理解することで、他者との深いレベルでの相性を知ることができます。
適職と人生の使命
各ナクシャトラの支配神が司る領域を理解することで、自分の天職と人生の使命を発見できます。
ナクシャトラの神話から学ぶ人生の智慧
27のナクシャトラと支配神の神話を通して、私たちは宇宙の壮大な物語の一部であることを理解できます。それぞれの神話は、ただ古代の物語としてだけではなく、深い教えと導きに満ちています。
ナクシャトラ神話が教える普遍的テーマ
創造と破壊の循環:シヴァ系の神々(ルドラ、ニルリティ)から学ぶように、人生には必要な終わりと新しい始まりがあります。古いものを手放すことで、新しい創造の場が生まれるのです。
愛と献身の力:ロヒニーの物語やミトラの友情神話が示すように、深い愛と忠誠心は人生を豊かにし、困難を乗り越える原動力となります。
治癒と再生の可能性:アシュビニー・クマーラやヴァルナの神話から、どんな状況でも癒しと回復の可能性があることを学べます。
智慧と学びの価値:ブリハスパティやサラスワティの教えは、知識と学習が人生を導く光であることを示しています。